精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年1月21日の記事
入学前や入学後、今までこんなことはなかったのに…という悩みを経験するママも多いのではないでしょうか。そこで、読者の方から寄せられた子どもの言動に関する質問に対し、親としてどのようなことができるのか、児童精神科医の市田典子先生に全5回にわたり教えていただきます。第1回では入学前の子どもの情緒変動、入学から1か月経ったタイミングでの登校しぶりについてお聞きしました。
「いつも元気はつらつな娘ですが、年明けから情緒不安定なようです。ちょっとしたことでお友だちとケンカになったり、うまくいかないと怒りっぽくなったり…。特に思い当たるきっかけはないのですが、やはり入学を控えてプレッシャーを感じているのでしょうか? 同級生の男の子も、急におねしょをするようになったと言っています。不安を軽くするために、親ができる声がけがあれば教えてください」(年長女児母)
今までとは違う子どもの様子に、親は心配になってしまいますが、大きな変化を控えてプレッシャーを感じるのはむしろ当たり前のことだと市田先生は言います。
「子どもにとって心にかかるプレッシャーや負荷が大きいと、普段と違う様子や行動となって表れます。それはイヤな時に限らず、本人が頑張りたい・楽しみだと思っている時でも起こります。小学校への入学は、お子さんにとって今まで過ごしていた幼稚園や保育園での環境からがらりと変わるものです。環境の変化を控えて情緒不安定になるのは、ごく普通に起こり得ることであり、おかしいことではないと考えるとよいでしょう」(市田先生)
親から見ると「心配し過ぎじゃないの?」と感じ、「大丈夫よ」と声をかけるのですが、本人の不安は拭えない…。そんな時、親としてどのような言動を心がけたらよいでしょうか?
「ただ『大丈夫よ』と言われても、入学前の子どもにとって小学校は未知のもの。経験者である親がいくら『大丈夫』と言ったところで、子どもにとって経験していないものは想像がつきません。そのため、実際に通学予定の小学校までお散歩気分で何度か歩いてみる、『学校が始まっても、しばらくはママがついて行ってあげるからね』と声がけするなど、まずは入学・登校のハードルを下げるため、いろいろな方法を試してみるといいのではないかと思います」(同)
「入学して1か月、疲れが出てきたのか、朝、登校しぶりをするようになりました。わが家は『お腹が痛い気がする…。学校に行けないかも…』と言うだけで、親が急かせばしぶしぶ登校するのですが、近所の同級生は毎朝泣きながら登校しているようです。登校しぶりをする子と、しない子の違いは何なのでしょうか? 本音を親に言えるだけいいかなと思いつつ、毎朝だと疲れてしまいます」(小一男児母)
入学後しばらくは楽しそうに通っていたのに、知らない間に学校で何かあったのかと心配になりそうです。
「大人でも『五月病』という言葉がありますよね。連休明けに仕事に行くのがおっくうに感じるように、子どもにとっても『登校』という負荷が大きくかかる行為は、心の負担も大きくなります。楽しそうに登校していて、本人ですら気づいていなくても、心の中では必死に頑張っているというサインかもしれません」(同)
頑張り過ぎのサインを、問題が小さなうちに出すのはいいことでもあるそうです。気持ちの変化が行動に表れる子もいれば、表れない子もいますが、その違いはどう捉えたらいいでしょうか?
「みんなそれぞれが心の中に『ストレスのいれもの』を持っています。負荷が増えてストレスが持ちきれなくなってしまうと、いれものから溢れ、SOSとして行動に変化が出てきます。元々お子さんが持っている『ストレスのいれもの』のキャパシティや性質、傾向はそれぞれが持って生まれたものなので、表れ方も違って当然なのです。
心の負担を自覚しやすい子もいれば、しにくい子もいます。また、負荷に気づいても『ストレスのいれもの』のキャパシティが大きくて行動に表れない子もいます。行動に表れること自体は異常なことではないので、いざ表れた時にどうしたらいいか対策を考えるのがいいのではないでしょうか」(同)
実際に登校をしぶられると困ってしまいそうですが…。
「最近は働いているお母さんも多いので、登校しないとその時間、仕事に行けずにどうしよう…となりますよね。わが家も共働きなのでよくわかります。ただ、それはあくまでも親の都合なので、お子さんにかかっている負荷とは分けて考えたいところ。お子さんが表している気持ちを、まずは引き取ってあげることが大切です。『そっかぁ、毎日頑張って学校に行っているんだね、えらいね!』と一声かけるだけでも違うかもしれませんね。
仕事を休むのはなかなか難しいと思いますので、『あなたが学校に行かないとお母さんは仕事に行けずに困る』ではなく、『あなたが学校に行ってくれたからお母さんも安心して仕事に行けたよ、ありがとう』と伝え方を工夫してみるのもいいと思います」(同)
子ども自身、家族に属している意識があるため、自分が役に立っていると思うとやってみようと思えるそうです。「学校に行けて当たり前」の前提ではなく、出来たことにスポットライトを当てていきたいですね。
次回も引き続き、読者の方から寄せられた相談を市田先生にお聞きします。
(取材・執筆:代 麻理子)
精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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