心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務後、東京都立大学大学院へ。大阪大学大学院助教授等を経てMP人間科学研究所代表。多くの国立・私立大で教えた経験を活かし教育講演を行う。著書に『「上から目線」の構造』『その「英語」が子どもをダメにする』など多数。
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生活・しつけ
小学1年生 2018年11月6日の記事
育児に対するたくさんの情報がある中、子どもへの対応は日々迷うことばかり。何が正しいのか、分からなくなりがちです。前編では心理学者の榎本博明先生に、「ほめること」と自己肯定感の関係や、「ほめて育てる」考え方が広まった背景などを伺いました。後編では、子育てで目指すゴールとそのプロセスについて、さらに育児に自信がなくなったときの対処法までを伺います。
榎本先生が考える、子育てにおけるゴールとは何でしょうか?
「子育てにおけるゴールは、子どもの自立です。前編でもお話ししたように、欧米では赤ちゃんの頃から子ども部屋に一人寝させるなど、親と子は完全な個対個という考え方をするので、子どもは必然的に“個”として成長し、自立します。一方、日本は母子一体感が強い寄り添い型育児。母子の濃密な関係は、江戸時代の子育て書にも記載があるように、日本では昔から根強く見られるもので、自立のプロセスも欧米とはまったく異なります」(榎本先生)
寄り添い型育児の日本では、自立のためにどんな教育がされてきたのでしょうか?
「日本は少し前まで、共同体で子どもを育てる社会でした。親が子どもに甘い分、子ども達は子ども組、若者組などの自治的な組織や地域社会で厳しい戒律を知り、社会性を身につけ、自立への力を養っていたのです。
当時、しつけは親よりも、地域や学校が担うものという意識が強くありました。しかし、現代においては地域や学校がそれらの機能を果たせなくなっているため、子どもを自立させ、社会性を身につけさせる役割も、親が担わなければならなくなっているのです」(同)
親は甘やかし、その分ご近所さんや先生が子どもを叱る……。現代の感覚だとちょっと違和感を覚えるような考え方ですが、地域社会や共同体が機能していたかつての日本では、そうしたたくさんの大人に見守られて、子どもたちが成長・自立を果たしていたのですね。
共同体機能が薄れた現代では、どのように自立への力を育んでいけばよいのでしょうか?
「成人したら子どもは社会に適応し、一人で生きていかなければなりません。そのためには、親も子もそれぞれに交友関係・人間関係を持っていることが大切です。特に変化が大きい現代社会において、将来子ども達が乗り出していかねばならない社会は親にとっては全くの未知のものであり、完璧に導くことなどできません。親子という“縦”の関係を軸にして、友達という“横”の関係を自分で築いていく力が必要となってきます」(同)
そんな環境のもと、親にできることとはなんでしょうか?
「親だからできることとは、どんな状況でもたくましく突き進み、自分の道を切り開いていける力を子ども自身につけさせ、世に送り出すことです。未来は楽しいことばかりではなく、苦しいこともたくさんあるでしょう。前編で『レジリエンス』についてお話ししましたが、困難を乗りきる力をつけるためには、ほめるだけでなく時には厳しいことを言い、時には叱り、子どもに所属する社会のメンバーとしてふさわしい態度や行動様式、欲求不満に耐え、苦しい状況でも持ちこたえられる力を身につけさせることが重要なのです」(同)
子どもに安心感を与えつつ、一方で社会的規範を身に着けさせるため、厳しくしつけるのが親の役割。ただし、子どもの将来を親だけで背負い込むのではなく、親子それぞれが“横の関係”も大切にすることが、変化の大きい社会を柔軟に渡るための武器になってくるのですね。
子育てにおける親の役割が大きい現代社会。だからこそ育児や教育についても様々な情報があふれ、親は「自身の育児法が正しいのだろうか?」と不安になることもあるかと思います。そんな時にはどうしたらよいでしょうか?
「私が長年、心理学の研究や教育に携わってきた中で、声を大にして子育て世代の方々に伝えたいのは、子育てをしているとイライラすることも感情的に怒ってしまうことも当たり前のようにあるということです。私自身にも経験があります。しかし、親子間に絆と愛情があれば、一時的に感情的に怒ってしまっても、間違ったことにはなりません」(同)
怒ってしまい、罪悪感にかられた時には何を思えばいいのでしょうか?
「言葉でフォローすることよりも大切なのは、もっと根本的なところで『子を思う心』です。普段から一緒に過ごし、じゃれ合っていれば、一時的に気まずいことになっても、嫌われたり恨まれたりすることはありません。
これをお読みの方は、まさに子育てまっただ中かと思います。情報がたくさんあり、不安になることもあるかと思いますが、模範的な子育てをしようなどと考える必要はありません。子育ては毎日が試行錯誤です。気持ちが子どもにちゃんと向いていれば、どんな対応であっても、時に感情的に叱ってしまい気まずいことになっても、すぐに修復できるし、気持ちは通じるものです」(同)
子育てをしていると、ニコニコ笑顔でいられることばかりではありません。叱るべきときに叱ること、また、普段から気持ちを子どもに向けておくことが大切だというのは納得です。流行の子育て論をそのまま取り入れるのではなく、子どもにとって何が大切かの問題意識を忘れずにいたいですね。
(取材・執筆:代 麻理子)
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務後、東京都立大学大学院へ。大阪大学大学院助教授等を経てMP人間科学研究所代表。多くの国立・私立大で教えた経験を活かし教育講演を行う。著書に『「上から目線」の構造』『その「英語」が子どもをダメにする』など多数。
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