特定非営利活動法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ代表理事。東京学芸大学教育学部卒業後、サラリーマンを経て、2014年に特定非営利活動法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダを設立。保育士、幼稚園教諭、小学校教諭、中学校教諭(美術)、高校教諭(美術)の資格を持つ。全国各地で開かれる映画「こども哲学~アーダコーダのじかん~」自主上映会にて親子から大人同士までを対象にした哲学対話を実践している。著書に「自信がもてる子が育つ こども哲学 ―"考える力"を自然に引き出す―」(ワニブックス)など。
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年長 2019年1月16日の記事
子どもたちが輪になって対話をする「こども哲学」。中学校の道徳の教科書に掲載されたり、NHK Eテレで番組が放送されたりと広まりつつありますが、何歳くらいからできて、どんな力が身につくのでしょうか。特定非営利活動法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダの設立者で代表理事を務める川辺洋平さんにお話しを伺いました。
子どもが数人から20人ほどで輪になり、哲学的に対話を進める「こども哲学」とは、いったいどんなものなのでしょうか? 改めて、川辺さんにこども哲学の始まりを伺いました。
「哲学対話そのものは、1920年代のドイツで『ネオ・ソクラティック・ダイアローグ』として始まりました。哲学者ではなく一般人が哲学をする活動のことです。一方で、こども哲学は1970年代のニューヨーク、コロンビア大学でマシュー・リップマンが『Philosophy for Children』を掲げて始めました。哲学対話とこども哲学は対象者が違うだけで同じものですが、始まりの時期が異なります」(川辺さん)
こども哲学はどんなことをするのでしょうか?
「哲学対話とは、答えがないと思われるテーマについて、複数の人で話し合いをする活動です。最初は問いの形を取らなくてもよく、例えばテーマを『結婚』にして、『結婚ってしたほうがいいの?』『なぜ結婚するの?』といった問いを作る過程も哲学対話になりえます。こども哲学も同じで、対象が子どもになるだけ。ただし、大人がファシリテーター(進行役)などをする場合、子どもの話を理解できるのかが重要になります」(同)
大人が子どもの話を聞いて「こういうことでしょ」と決めつけず、しっかりと耳を傾けて理解するよう努めることが大事なのだそうです。
こども哲学は、何かを「教える」というスタンスではないため、学校の勉強や、その他の課外活動とは趣が違うよう。この活動でどんな力が身に付くのでしょうか?
「よく言われるのは『人の話を最後まで聞く力』『自分の意見が言える力』『相手が話しているときに待つ力』が身に付くということ。こども哲学は3~4歳くらいから参加できるものですが、子どもたちを見ていると、この『聞く』『話す』『待つ』の三拍子は、年長くらいで『身に付いてきたな』と感じることが多いです。
さらに小学生にとって、授業とは違う『間違った意見を言ってもいい』『そもそも答えがない』というこども哲学には安心感があります。ほかの人がさまざまな意見を述べ、それを理解することが、校内暴力の減少につながるという研究もあります。あることをテーマに哲学対話をしていると、他の人の考え方が自分と全く違うということがわかってくるんですね」(同)
哲学対話には問いがつきもの。「質問をする力」も養われるのではないでしょうか?
「そもそも子どもは誰でも疑問を持っています。ただし、疑問を持っていても言えない子どもはいる。『こんなことを質問したら恥ずかしい』など、疑問に分厚いふたが乗っているんです。そんな疑問のふたを、こども哲学の場が持つ安心感によって開けてあげることはできるでしょう」(同)
子どもが自分らしく育つためにとても有効に見えるこども哲学ですが、対話が向いていない子どももいるのでしょうか?
「スタイルによって向き・不向きはあります。たとえば、すごく仲の良い子同士なら話せる子どもと、知らない人相手の方が話せる子どもとでは、『安心感の得られる状況』が違いますよね。また、授業などで『やらされる』場合、ほとんどの子どもは嫌がります。『参加することを選択できたかどうか』が重要な子どももいるようです。
ほかにも、ありがちな『サンタクロースはいるのかな?』といったテーマにすると『サンタさんはお父さんだと思うけど、そう言ったらお父さんが悲しむから言えない……』と、何でも言える安心な場でなくなってしまうこともあります。
子どもが日常の中で気になっているのは、『どうして大人は苦いものが好きなの?』『どうして服を着なくてはいけないの?』『どうして学校に夕方から行ったらいけないの?』といった些細なこと。でもそれも、明確な答えがあるものではありません」(同)
子どもは考えることが好きで、あらゆることに疑問を持つもの。それを、安心できる場所で発言できることが、子どものすくすくとした成長につながるのかもしれません。川辺さんはさらに「子どもに哲学対話をさせる際、気をつけてほしいことがある」と続けます。
「大切なのは、『哲学を通じて何かを学ばせよう』と強く考えすぎないことです。早期教育として哲学をさせたいとか、発話が苦手なお子さんに発言できるようになってほしいとか、そんな風に考えると主催者も参加者も共倒れになってしまう。こども哲学はディベートの授業ではありません。発言せずに黙々と考え込んでいたっていいんです」(同)
今回は、こども哲学の考え方や、それによって身に付く力について伺いました。次回は、具体的なこども哲学の進め方、大人がファシリテーション(司会・進行)をする際に気を付けるポイントなどをお伺いします。
(取材・執筆:栃尾江美)
特定非営利活動法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ代表理事。東京学芸大学教育学部卒業後、サラリーマンを経て、2014年に特定非営利活動法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダを設立。保育士、幼稚園教諭、小学校教諭、中学校教諭(美術)、高校教諭(美術)の資格を持つ。全国各地で開かれる映画「こども哲学~アーダコーダのじかん~」自主上映会にて親子から大人同士までを対象にした哲学対話を実践している。著書に「自信がもてる子が育つ こども哲学 ―"考える力"を自然に引き出す―」(ワニブックス)など。
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