元杉並区立保育園園長。東京都の福祉サービス第三者評価の評価者として約500件以上もの保育園の評価を実施。子育てアドバイザーとして、子育て支援のシンポジウム・講演会なども行なっている。
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学校・まなび
年長 2018年11月15日の記事
「保育園育ちは小学校入学後に不利」の噂は本当?
保育園っ子ママの入学前の気がかり・前編
「保育園っ子は、入学前に園で文字や数を覚える機会が少ないから、小学校に入ったら苦労する」という話を耳にします。それって、どこまで真実? だとしたら今から何かしておいたほうがいいのでしょうか? 公立保育園の元園長で、現在は保育園などの福祉サービス第三者評価の評価者などを務める野田友子さんにお話を伺いました。
●保育園にも「教育」が義務づけられている
保育園では、幼稚園と比べて文字や数を教える機会が少なく、幼稚園育ちの子どもと比べると、小学校入学後、勉強についていけず苦労するなどという話を聞くことがあります。実際、保育園と幼稚園で、それほど違うものなのでしょうか?
「現在は幼保連携型子ども園などもあり、幼稚園と保育園の違いが少なくなってきている傾向がありますが、以前は『保育園は子どもが生活する場、幼稚園は教育の場』などと言われており、保育園は、仕事などで忙しい親に代わって子どもを保育する場とされていました」(野田さん)
そのため、保育現場にも「教育よりも健康な体づくりや遊びを自分で考え出しながらのびのびと遊び、生きる力を育てることが第一」という考えがあったのだとか。しかし、最近は違うようです。
「平成29年3月の告示で、保育所保育指針が改定されました。その中の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿』として定められた10項目の中に『思考力の芽生え』や『数量・図形、文字への関心・感覚』などがあります。義務ではなく、あくまで目標ですが、現在では保育園でもこの10項目に沿って、数や文字への興味・関心を育む保育に取り組むようになってきていると思います」(同)
●遊びの場面に文字数の理解が深められる取組みも
とはいえ、保育園は0~1歳の乳児から通うため、まずはお勉強よりも健康的な体や心を作ることに重点が置かれているそうです。
「乳幼児期はお勉強中心の生活よりも、まずはのびのび遊んで、健康的な体やどんなことがあっても折れない心を作り、いろいろなことに積極的に取り組む意欲を育てることが重要。それがすべての土台になるからです」と野田さんは言います。
「生きる力」が重要と言われている昨今、自由な遊びや体を動かすことを中心にたくましい体と心を育ててくれる、のびのびとした保育を行っている園をあえて選びたいという親御さんも多くいますよね。とはいっても、小学校入学が近づいてくると、遊んでばかりで文字や数を理解できないまま入学するんじゃないかという不安も…。
「文字や数を“お勉強”という形で教えるのではなく、毎日の保育の中で、文字や数の理解が深められるような取組みを入れ、入学後の学習に必要な基礎力が十分身につけられるよう意図された保育が行なわれている園も多いのです」(同)
「例えば、朝の集まりの時間に歌を歌ったり挨拶をするだけでなく、『今日は○月○日です』と伝えたり、『今日は○○ちゃんがお休みです。1人お休みだから、今日の○○組さんは全部で何人ですか?』と問いかけるなど、年齢に応じて、数の認識が深められるような働きかけをしたり、食育とからめて、その日の給食の献立や材料の名前を読んで、いろいろなものの名前を覚えられるようにしていたりする園もありますね」(同)
ほかにも、遊びの場面で『10回手をたたいたらチェンジだよ』とか『おだんご、3個ください』などと、さりげなく保育士が年齢に合わせた声かけをすることで、遊びながら自然に数や文字が身につけられるようにしている園も多いそうです。
また、文字や数を覚える以上に大切なのが、イスに一定時間座っていられる習慣づけ。
「保育士が読み聞かせをしたり、『語り』のボランティアさんなどのお話を聞く時間を設けたりしている園も多いですが、これは文字教育というよりも、学校生活を見すえて、一定時間イスに座って、人の話を聞く習慣をつけるねらいがあるのです」(同)
親からは遊んでばかりいるように見えるかもしれませんが、実はきちんと教育的な要素が取り込まれているのですね。
●就学前教育の中身は、園によってバラつきも
最近では、基本の保育を満たしつつ、乳児クラスのうちから英語圏出身の講師が保育に関わるようにするなど、教育的なサービスを充実させている保育園も増えています。ただ、このような保育がどこでも行なわれているかというと、まだ園によってバラつきがあるのだとか。
「今の時代、就学前教育を何もやっていない園はないと思いますが、その程度は園によって差があると思います。遊びが中心で入学後の学習に向けての取り組みを何もしていない場合、入学直後につまづいたり、他の子どもとの差を感じて、それ以上勉強するのが嫌になってしまう子もいるかもしれません。園と学校では生活そのものが違いますから、やはりある程度は学校になじむための土台づくりは必要だと思います」(同)
子どもの通っている園で、あまり就学に向けての取り組みがされていないと感じたら、どうすればいいでしょうか?
「もし不安なら、就学に向けて、どんな取り組みをしているか園に直接聞いてみてはどうでしょう。クレームではなく、『うちの子はまだ自分の名前が読めないので、少しずつ教えていきたいのですが、園でしていることを参考にしたいので教えてください』という感じで聞くのがよいと思います。そして、園の取り組みが少し足りないかなとか、子ども自身の様子を見て、このままだとちょっと不安かなと感じたら、家庭で補っていくといいでしょう」(同)
最近では幼児向けのひらがなや数字のワークブックも多く売られているので、それらを活用すれば家庭でも準備することができそうですね。次回は、保育園児向けの、家庭でできる入学前の準備について具体的に伺います。
(取材・執筆:坂本洋子)
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