日本体育大学健康学科教授。子どものからだと心・連絡会議議長。保育・教育や育児の現場の、子どもたちのからだと心が「気になる」「どこかおかしい」という実感をもとに、その実体を追求する研究を続けている。著書に『ここが“おかしい”!? 子どものからだ』(芽ばえ社)など多数。
- トップページ >
- 生活・しつけ >
- 知っておきたい、子どもの成長とゲームの関係
生活・しつけ
年長 2018年12月20日の記事
知っておきたい、子どもの成長とゲームの関係
今や子どもの遊びといえばゲーム。小学校入学前からゲームに夢中になっている子も少なくありません。親としては、ゲームよりも外遊びや読書をしてほしいのが本音。だからといって、ゲームを完全に禁止にするのは難しいもの。では、子どもにゲームとの付き合い方をどのように教えていけばいいのでしょうか。長年、子どものからだと心について研究している日本体育大学教授の野井真吾先生に伺いました。
●長時間のゲームは意欲や集中力の低下の原因に
一度ゲームを始めると何時間でも夢中になって、親が何を話しかけようと聞かない…。そんな子に「今日からゲーム禁止!」と言っても猛反発されるだけだし、これだけさまざまなゲームが身近にある状況で、ゲームを全面禁止するのは正直難しいと考える親御さんも多いのではないかと思います
「確かにゲームは大人でも夢中になるくらい楽しいものですが、特に成長期の子どもにとっては受ける影響も大きくなります。まず問題になるのは生活リズムの乱れ。ゲームに夢中になって夜更かししてしまうと朝の目覚めが悪くなり、朝食が食べられない、授業に集中できない、寝不足で日中ぼーっとしているのに、夕方になると活発になってまたゲームに熱中する…という悪循環に陥ります」(野井先生)
近年、イライラしやすかったり、ちょっとしたことでキレやすくなったり、何事にも熱中できない…ひとことで言えば「元気のない子」が増えていると言われていますが、これは先生によると、生活習慣の乱れが原因なのだとか。
「食事をきちんととり、日中に光を浴びるとセロトニンという脳内神経物質が分泌されるのですが、これは精神の安定や、重力に逆らって姿勢を保つために筋肉を緊張させる働きを持っています。さらにセロトニンは、夜暗くなるとメラトニンという睡眠導入ホルモンの材料になります。メラトニンは体温を下げて眠りを誘う働きや、抗酸化作用などの働きを持っています」(同)
ゲームに熱中しすぎると
・外遊びをしなくなり、日中に受光が少なくなる
・睡眠時間が短くなる
・夜にゲームをすることで夜間に光を浴びる時間が長くなる
といった傾向が強くなるため、結果的にセロトニン不足になってしまうというわけです。
●ゲーム依存がひどくなると脳の機能にも影響が出る
では、ゲームそのものが子どもに影響を与えることはないのでしょうか。
「ゲームは慣れてくると、反射的に指を動かすだけになり、そのとき心の身体的基盤といわれている前頭葉は働いていません。長時間のゲームは、心が刺激されない時間がそれだけ長くなるということですから、子どもの成長には決してプラスにはならないと思います」(同)
さらに、決められた時間を過ぎてもゲームがやめられないといった状態が続いて生活に支障をきたす(つまり依存症になる)と、脳が持っている人とコミュニケーションをとる力や、困難を克服したり、先の見通しを立てて頑張る意欲を司る場所の機能が働かなくなってしまうのだそうです。
「なぜそうなるのかはまだわかっていませんが、この2つの機能が低下するという状態は、アルコール依存や薬物中毒の場合と共通しているのです」(同)
前頭葉の中でもこれらの部分は後天的に発達するため、成長途上の子どもは特に、ゲーム依存になりやすい傾向があるとのこと。「たかがゲームにちょっと大げさ」と思われるかもしれませんが、今や高校生の2〜3人に1人はゲーム依存症ではないかという専門家の意見もあるそう。小1の今から、親が真剣に向き合うことが重要なのかもしれません。
●ゲーム漬けの子にしないための3つのポイント
では、子どもをゲーム漬けにしないためには、どうすればよいでしょう? そのポイントをいくつか挙げていただきました。
1 子どもにデメリットをきちんと説明する
2 ルールを作る
3 ゲームに代わる楽しいことを提案する
1については、先生ご自身、当時小2だった娘さんがゲームが欲しいと言い出したときに「ゲームをすると脳や身体がどうなるのか」ということを徹底的に説明したそうです。「詳しいことは理解できなかったでしょうが、どうもダメらしいとわかったようで、そのときは諦めました。子どもであっても一方的にダメと禁止するのではなく、冷静に科学を伝えることも必要なのではないでしょうか」(同)
ゲームのリスクやデメリットについて、親が真剣に伝えれば、たとえ1年生でも子どもなりに理解し、納得する部分があるのかもしれません。
2はよく言われることですが「時間帯や時間など、各家庭でルールをしっかり決めることが大事です」とのこと。小学生のうちは、夜ふかしにならないような時間帯にすることがポイントです。
ただし、小学校低学年くらいでは、理屈を説明してルールを決めるだけでは、自分でゲームの時間をコントロールするのは難しいもの。そこで3が大事になってきます。
「子どもはほかに熱中できるものがあれば、ゲームばかりに意識が行くことはありません。特に低学年のうちは、ゲームより楽しいことがあるんだよということを、提案してあげることも必要でしょう」(同)
ゲームよりも楽しいことなんて何だろう? と思う方もいるかもしれませんが、「ゲームに夢中だった子が、クラスの子たちと鬼ごっこで遊んだ後、『先生、この鬼ごっこって誰が発明したの?』と聞いたそうです。ゲームよりも面白いものは意外とたくさんあって、それがわかったら子どもはそちらを選ぶのではないでしょうか」と野井先生。
まずは外遊びや体を使う遊びで、昼間、クタクタになるまで思い切り遊ぶ時間を作ってみてはいかがでしょう。
(取材・執筆:坂本洋子)