日本体育大学健康学科教授。子どものからだと心・連絡会議議長。保育・教育や育児の現場の、子どもたちのからだと心が「気になる」「どこかおかしい」という実感をもとに、その実体を追求する研究を続けている。著書に『ここが“おかしい”!? 子どものからだ』(芽ばえ社)など多数。
- トップページ >
- 生活・しつけ >
- 「鬼ごっこ」で、キレにくい子になる? 脳と遊びの大事な関係
生活・しつけ
年長 2018年12月21日の記事
「鬼ごっこ」で、キレにくい子になる? 脳と遊びの大事な関係
ここ数年、学校現場などでは、すぐに「疲れた」と言う子やキレやすい子が増えているという声が上がっているそうです。心当たりのある方もいるかもしれませんが、実はその原因、子どもの“ワクワク・ドキドキ”不足にあるかもしれません……。子どものからだと心・連絡会議の議長であり、日本体育大学教授の野井真吾先生に詳しく伺いました。
●子どものキレやすさは、前頭葉の発達不全が一因
子どもが疲れやすい体質になってしまう要因のひとつに、まず、生活習慣の乱れによる自律神経の機能不全があります。ゲームに熱中したりすることが原因で、日中に太陽光を浴びる量が少なくなる、夜に画面などから光を浴びる時間が長くなるといった状態になり、その結果、自律神経に関与するセロトニンというホルモンが不足し、疲れやすい体質につながってしまうのです(前記事参照)。
そしてもうひとつ、疲れやすい体質を作る要因は、意欲や創造、実行などに関わる「大脳前頭葉」の発達の遅れにあるのではないかと野井先生は語ります。
「子どもの大脳前頭葉にはいくつか特徴の型があるのですが、もっとも未発達なタイプが『不活発(そわそわ)型』で、成熟してくると『活発型』に変化していくと考えられています。『不活発(そわそわ)型』は、いつもそわそわしていて集中が持続しにくいのが特徴で、50年前の調査では6~7歳で1割程度だったのが、現在は5~6割に見られます」(同)
大脳の活動は、集中するために必要な「興奮」と、気持ちを抑えるために必要な「抑制」の過程で成り立っており、この2つの過程がバランスよく備わっていくことで大人の思考・行動に近づくと考えられているそうです。「不活発(そわそわ)型」は、「興奮」も「抑制」も強くない状態であり、本来は、ここから「抑制」よりも「興奮」が強い「興奮型」を経て、どちらも強く、そしてスムーズに切り替えができる「活発型」になっていくとのこと。
昔に比べ、今の6~7歳は脳の「興奮」も「抑制」も弱いままの子が増えているということですね。
●「伝承遊び」で前頭葉を刺激しよう!
では、子どもの大脳前頭葉の発達を促すためには、どうすればよいのでしょうか。野井先生は、まず「興奮」できることが大切だと言います。
「子どもが『興奮』できるようにするには、『ワクワク・ドキドキ』できる体験が大切。感情を発散させて、思い切りはしゃぐ機会をできるだけ作ってあげてください。『抑制』についてはたくさんの『興奮』過程を経ていくと、自然に育っていくものだと考えられています」(同)
習い事などで毎日忙しく、友だちと遊ぶ時間や空間がない現代の子どもには、ワクワク・ドキドキする機会がないのが問題なのだそう。具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。
「年齢によっても違ってきます。幼児期なら、くすぐりごっこなどのじゃれつき遊びや、抱っこ、肩車などが効果的ですが、小学生なら、何と言っても鬼ごっこやかくれんぼなど、昔から親しまれている伝承遊びが一番です。伝承遊びのいいところは、遊んでいる子どもが自分たちで独自のルールを決められること。『誰かにやらされている』のではなく、子どもが主体的に遊ぶことがポイントです」(同)
そのためには、大人が遊びに介入するのではなく、できるだけ子ども同士で遊ぶ機会や環境を作ることが重要だと先生は言います。「子どもの集団の優れているところは、例えば鬼ごっこで遊んでいるときに、年齢の小さい子が入ってきたとき、渋々ながらも自分たちでルールを作り直して、みんながワクワク・ドキドキできるように遊ぶんです」(同)。子どもだけで遊んでいるからこそ、何がベストか自分たちで考えて工夫できるのですね。
●スポーツはワクワク・ドキドキしきれない!?
伝承遊び以外で、おすすめの遊びはありますか?
「子どもが自由な発想で夢中になれる遊び、例えば、廃材を使った秘密基地づくりなどもいいですね。ここに部屋を作るために、何をどう組み合わせればいいだろう…なんて、いろいろ考えるのが前頭葉への刺激になるんです」(同)
子どもが夢中になれるといえば、スポーツなどもいいのでしょうか。
「スポーツは大人の作ったルールに則ってするものです。例えば、サッカーの場合、ゴールをしようとした瞬間にオフサイドなどの反則があると、ゲームは中断されますよね。子どもが自分たちでルールを変えることもできない。これでは子どもはワクワク・ドキドキしきれないんです」(同)
子どもが大勢いないとワクワク・ドキドキできないの? と思われるかもしれませんが、「とにかく子どもが熱中できる体験をたくさんさせてあげられれば、人数を気にしなくても大丈夫です」とのこと。遊び空間や時間の減少など、いろいろな問題はありますが、保護者一人ひとりが子どもにとって何が大切かを考えて、少しでもワクワク・ドキドキできる環境を作ってあげたいですね。
(取材・執筆:坂本洋子)