野井真吾(のい しんご)
日本体育大学教授。「子どものからだと心・連絡会議」議長。子どもの体の変化や問題について、教育や保育の現場の声から発せられる実感・実態を重視しながら、調査・研究を行なっている。中学生と小学生の2人の娘さんの父でもある。
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生活・しつけ
小学1年生 2017年4月17日の記事
前回、子どもたちの姿勢の悪さの原因は、背筋力の低下があるとうかがいました。でもそれだけではなく、実は「脳」の発達も、姿勢と深く関わってくるのだと、日本体育大学の野井真吾先生は言います。いったいどういうことなのでしょうか? 脳と姿勢の意外な関係についてうかがいます。
姿勢の悪さに脳が関係しているとは、意外な気がしますが、いったいどのように結びつくのでしょうか?
「子どもの姿勢の悪化は、前回述べたように背筋力の低下も一つの原因だと思われますが、スポーツなどをやっていて背筋力の高い子でも、姿勢の悪い子は多く見られます。ですから筋力だけでは説明がつきません。そこで、ほかに原因を考えたときに『やる気』の問題が上がってきました。授業を受けていても、『やろう』という意志や意欲があれば、姿勢は保っていられるのではないかということです」(野井先生)
確かに、意欲を持って集中している時には、姿勢も保たれている気がします。
そこで野井先生たちは、脳の中でも意志・意欲をつかさどる前頭葉について調査したそう。そもそも人の前頭葉は、一番未熟な『不活発型(そわそわ型)』から『興奮型』『抑制型』『おっとり型』などを経て、成人らしい『活発型』に発達していくと考えられています。子どもたちの前頭葉が、その5つのタイプのどの段階にいるのかを調べる調査を行いました。
「子どものうちは、誰でもそわそわ落ち着かないけれど、興奮をたっぷり経験し、その興奮を抑える抑制の時期を経て、必要なときに集中できるようになってくるわけです。
1969年の調査では、小学校入学後の6、7歳の『不活発(そわそわ)型』は全体の1〜2割程度でしたが、男の子で年々その割合が増加し、90年代に過半数を超え、2007-2008年の調査では、なんと7割の男の子(女の子は3割程度)が『不活発(そわそわ)型』だという結果になったのです」(同)
このタイプの子どもは、集中が持続せず、いつもそわそわ・キョロキョロして落ち着きがないのが特徴なのだとか。
「90年代といえば、学級崩壊や小1プロブレムが問題になりはじめた時期でもあり、こうした子どもの変化と、姿勢の悪化が符合するのは偶然ではないと思います」(同)
ではそもそも、不活発型が増えてきた原因は何なのでしょうか?
「セロトニン神経が関係していると考えられます。脳内神経の一種であるセロトニン神経は、セロトニンという神経伝達物質を分泌し、正しい姿勢を維持するための筋肉である抗重力筋を緊張させる働きを持っています。また、気分を安定させたり緊張感を緩和したり、イライラを解消するなどの役割も果たします。
セロトニンは、朝から日中にかけて光を浴びることで、よりたくさん分泌されるのですが、現代の子どもたちは、外遊びをする機会が減ってきてきます。そのためセロトニンが増えず、セロトニン神経も弱くなり、イライラしたり、気分が安定しなかったり、集中力に欠けたりして、結果的に姿勢が悪くなっているのではないかと考えられるのです」(同)
なるほど。90年代以降、子どもたちの外遊びが減ったことが、結果的に姿勢の悪さにつながったということですね。外遊びをしないと体力や筋力も落ちるので、さらに姿勢も悪くなります。
「さらにセロトニンは、睡眠ホルモンの『メラトニン』を作り出す材料になるので、セロトニンの分泌が少ないということは、寝つきや目覚めが悪くなり、生活リズムがくずれる要因にもなります。
わたしたちの調査でも、姿勢の悪さだけでなく、『夜眠れない・朝起きられない子』や『午前中やる気が出ない』という子が増えているという報告が寄せられています。これもすべてセロトニンが不足する生活が背景にあるのではないかと考えられます」(同)
子どもの姿勢の悪さは、しつけや体力に原因があると思っていましたが、突き詰めると現代の生活の問題につながるのですね。それでは、どうしたらいいか、次回はその方法についてうかがいます。
(取材・執筆:坂本洋子)
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