1958年生まれ。慶應義塾大学文学部教授。博士(教育学)。専門は教育心理学、行動遺伝学、進化教育学。著書に『心はどのように遺伝するか ―双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)、『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)など多数。
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学校・まなび
年長 2019年3月8日の記事
保護者自身の「学び」が、子の成長をブーストする!?
行動遺伝学の先生が教える「学び」の意味【第3回】
学び続ける意味を、行動遺伝学の観点から伝える当連載。第3回は、保護者自身が「好き」を見つけ、楽しく学び続けるための方法と、それによる子育てのメリットについて、行動遺伝学・進化教育学を専門とされる安藤寿康先生に引き続き伺います。
●現代の「孤独な子育て」では、保護者自身の学びの機会が取りづらい
ここまで、子育てと遺伝、そして学びの関係についてお話を伺ってきました(第1回、第2回参照)。今回は「保護者自身の学び」がテーマですが、そもそも、そんな時間や、心の余裕がないという方も少なくないのではと思います…。
「確かに、核家族化が進み、単独で子育てする環境にある現代のママ・パパは、とても苦しいと思います。というのも、もともと人間は子どもを共同養育する生物。他の動物と比べて極端に『子ども期』と『老年期』が長いのも、老年期の人々、つまりおじいさん・おばあさん世代が子育ての肩代わりをして、その分、親が子どもの食べ物の分まで働いたり、次の子どもを作ったりするためという仮説が有力です。
それはさらに前の世代から次の世代への教育の機会にもなっていたはずで、日本でも、つい数十年前まではそういった養育スタイルが主流でした。忙しくなったら隣のおばあちゃんに子どもを預けて働く…というのは、人類が進化の大半でやってきたもの。それが難しい現代では、子育てを担う保護者への負担が増大し、その方自身の学びの機会が取りづらいというのは大いにあることだと思います」(安藤先生)
●子育てに奮闘する保護者自身が、積極的に「学ぶ」意味とは
保護者としては「自分よりも子どもに、少しでも良い教育を…」と思ってしまいます。それでも、保護者自身が学ぶ意味はあるのでしょうか?
「『良い教育を…』と気負いせずとも、人間は放っておいても『他人を教育してしまう』生物なんです。人間は他の動物と違って、生きるために必要な知識を、一人だけでも、また、他の個体がやっているのを見て真似するだけでも学ぶことはできません。すでに知識を持っている人たちから、何らかの形で教わらなければ身につけられない動物として、進化的に生まれついている。つまり、『人は教育によって生きる動物』なのです。
それにより人間は、放っておいても他人のことを考える、最も利他性の高い生物として進化しました。皆さんも、お子さんが何かできなくて困っていたら『ほら、これはこうするのよ』と自然に伝えていますよね? そのこと自体が立派な教育なのです。だからこそ、『いい教育を与える』と気負いせずに、まずは保護者自身が生きた知識を学び続けることが大切なのだと思います」(同)
●自分の「好き」を見つめ直すことが、楽しく・効率よく「学ぶ」コツ!
実際に学ぶにあたり、保護者の中には「今さら何を、どう学べばいいんだろう…」と悩んでしまう方も多いと思います。保護者が学び続けるための「コツ」があれば教えてください。
「よく言われることですが、ご自分の『好き』を深めていくことだと思います。自分が何を『好き』なのかわからない…という方は、小学校高学年くらいから今に至るまでを思い返し、こだわっていることがないか探してみてください。あなた自身が繰り返し、繰り返し戻っていく何かです。
例えば、裁縫が得意で好きだとします。その『好き』も、縫う・作りあげる行為が好きなのか、デザインするのが好きなのか、素材そのものが好きなのか、それぞれで違いますよね。今だとインターネットなどで作ったものを手軽に販売できますが、そうすると作ったものの見せ方、売り方、魅力的なキャッチコピーの付け方…など、作品一つからさまざまな事象が広がります。その際にあなたが工夫して使うものこそ、生きた知識ではないでしょうか。
第1回でお話したように、好き嫌いや趣味、パーソナリティほど遺伝の影響は大きいもの。その、一人一人異なった遺伝的スタイルを持って、私たちは他人が想像もつかないような独自性を発揮しています。
だからこそ、ご自身の気持ちが振れるものを『ただの趣味』と言って矮小化せずに、趣味というのは自分にとっての『のっぴきならない何かの窓口』だと考えてはいかがでしょうか? あなたにしか感じられない、あなただけのオリジナルだと思うと、なんだかワクワクしてきませんか?」(同)
保護者自身が「好き」を大切にしながら学ぶことで、子どもに教えられる「学び」の幅が増えるなんて、これはもうやらない手はありません。人生100年時代と言われる今だからこそ、親子ともに楽しみながら学ぶ姿勢を身につけたいですね。
(取材・執筆:代 麻理子)