精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年2月25日の記事
小学校入学前から入学後に生じる育児のお悩みについて、児童精神科医として臨床経験豊富な市田典子先生に伺う当連載。第4回では「落ち着きがなくて困っている」「整理整頓が苦手なわが子にどうしたらいい?」という読者の方からの相談に対して、保護者としてどのようなことができるのかを伺います。
「入学してしばらく経ちますが、相変わらず落ち着きがなく、先生の話をきちんと聞けていないようです。家でも話を聞くように注意していますが、どうにも響いていない様子。どうしたらいいでしょうか?」(小1男児母)
この手のお悩みは、特に小学校への入学前後、心配する気持ちが大きくなりそうです。
「“落ち着きがない“というお悩みは、私が臨床している中でも多く寄せられます。落ち着きのなさにもさまざまなパターンや原因がありますが、もともとの傾向として落ち着きがない子の場合、成長とともに徐々に落ち着いていくケースも少なくありません。一方、外的な環境からの心理的負荷によって、一時的に落ち着きがなくなっている、という場合もあります。大人でも、緊張するとソワソワして貧乏ゆすりをする方がいますが、それと同じです」(市田先生)
後者の場合、原因がわからないまま「授業中はソワソワせず、きちんと座っていなさい!」と伝えたところで、なかなか改善は難しいと市田先生。では、どんな原因が考えられて、それぞれどう対処したら良いのでしょうか?
「場合によっては、小学校にサポートをお願いすることで改善するケースもあります。例えば、先生の話をタイミングよく理解しきれず、今何をすべきかがわからなくなって立ち歩くようなとき。補助の先生を配置して適宜声掛けをしてもらったり、事前に手順をまとめたプリントを渡しながら説明を聞いてもらうなどの工夫をすることで、改善できたりします。
また、放課後にその日の学校生活を振り返り、どうすれば良かったか少しおさらいをしてもらうだけでも、話に集中するきっかけが学べて、改善に向かったりします。他にも、字を読むのが苦手で集中が途切れたり、作業を続けられずに落ち着きがなくなってしまうといった場合には、教科書にルビをふるだけで改善されるケースもあります」(同)
補助の先生については、1年生の理解力のばらつきを考慮して、教科によっては教員2名で授業を行うような取り組みもすでになされているそうです。
「立ち歩きは、子どもなりに対処しようとしたけれどうまくいかず、結果座っていられないということ」と市田先生。つまり、その子の理解の形式に合わせた工夫をすれば、改善に向かうものだと言います。
「理解するためのエネルギーを減らせば、その分集中を保つためのエネルギーが増やせ、結果的に座っていられる時間を延ばせますよね。そもそも45分間という授業時間は、1年生がずっと集中しているには長いもの。集中できなくなってわからなくなった時にどうすればいいのかを、あらかじめご家庭で教えておくことも大事です」(同)
学校にサポートをお願いする際の注意点も、教えていただきました。
「実は今の学校のシステムとして、専門家からお子さんに対しての見立てがないと、特別なサポートを受けられないという仕組みがあります。医学的な見立てや支援センターでの評価など『こういった特徴があります』というものがあって、はじめて、その子にとって適切なサポートを受けられるということ。そのため、病気かどうかではなく、お子さん自身のサポートになるからと考えて、気になる言動が続いたら気軽に専門家へ相談してみてもいいかもしれません」(同)
こういう時にこんな言動が出やすい、というのがわかっていたら、家庭でも学校でも対策がとりやすくなりますね。また、体幹が育っていないために体のバランスがうまく取れず、ちゃんと座れないというケースや、アレルギーによる身体的不調が落ち着きのなさとして表れるケースもあるとのことです。
心理・発達・行動というのはすべてつながっていて、分けて考えることができないものだそう。一つの側面だけで判断せずに、さまざまな面から何が起きているのかを把握していきたいものです。
「帰宅するとランドセルを放りっぱなしで、プリントも出さないし、遊んだおもちゃも片付けない。このまま大きくなったら本人が困るのでは…? と心配になります」(小一男児母)
わが家にもよく見られる光景です…。日々「片付けなさい!」「プリントは? 宿題は?」と声を荒げている気がします…。
「今の小学生はすごく忙しいと思います。1年生のうちから5時間授業があり、3時過ぎに帰宅・学童へ。日によってはそこからさらに習い事、といったスケジュールで、下手したら大人よりも忙しい日々を送っています。そのようなキャパオーバーな状態で、片付けまで手が回るわけがありません。『中にはできる子もいるんだな~』くらいに考えておくといいと思います」(同)
なんと! できて当たり前ではないのですね…。とはいえ、子どもの言動を見ていると、目の前のやるべきことを見なかったことにしているようで、心配になります…。
「子どもは見聞きする情報がいっぱいになると、情報の統制がとれなくなってしまいます。エネルギー量にも限界があるため、どこにエネルギーを使うかの配分を、子どもなりに考えるのです。目の前におもちゃがあったら、ランドセルを片付けるよりも遊びたい! と思うのは子どもの自然な欲求だと思います。処理すべき情報があり過ぎて統制しきれないと、全部なかったことにするのですが、それ自体はおかしなことではありません。
親が思い描いているような、“整理整頓がされていて、床や机の上に何もない状態”は、子どもにとっては高いハードル。そうはいっても、散らかった部屋はママにとってストレスの元だと思うので、子どもの片づけやすさを最優先に収納場所を再検討したり、物の絶対量をコントロールするのがオススメです。また、『床の上には置かない』など、大まかな枠組みでお互いの妥協点を探ってみるといいでしょう」(同)
子どもなりに忙しい毎日を精一杯過ごしていると考えると、親のストレスも減る気がしますね。
最終回となる次回は、心配性のお子さんに対して何ができるか、また、市田先生が考える“子育てにおいて親が心がけておくべきこと”について伺います。
(取材・執筆:代 麻理子)
精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
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