精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年3月1日の記事
小学校入学前から入学後に生じる育児の悩みについて、児童精神科医として臨床経験豊富な市田典子先生に伺う当連載。最終回となる今回は、心配性なお子さんへの声のかけ方、さらに、育児への不安を軽くするための「心得」についてお話しを伺いました。
「先生や大人に怒られるのを極度に恐れて、『国語の教科書がないから学校に行かない』など、少しでも怒られる要素があると学校を休みたがります。親としては当然休ませたくないのですが、子どもの必死な表情を見ると、どう対応するのが正解なのかわからずに悩んでいます」(小一女児母)
わが家の長男も心配性です。心配や不安を感じるときの心の揺れ・動きとは、どういったものなのでしょうか?
「子どもは絶対的な経験値が大人よりも少ないため、『あの時あれが起きたから、次もそうなってしまうかもしれない』と、一度起きたことを次もまた起きると結びつけて考える傾向があります。『次はそんなこと起きないかもしれないよ』と声をかけてみても、本人にしたらわからないから不安になってしまうんですね。
そんな場合には、例えばお子さんに『連絡帳にママから先生へひとこと書いておくね』と声がけするだけでも違うかもしれません。それでも登校に困難を感じるようなら、そんな日は行けなくても仕方がない、くらいに考えていていいと思います。
不安を感じやすいお子さんは、真面目で完璧にやりたい思考が強いため、そこからさらに大人が追い詰め過ぎるとパンクしてしまいます。『今日はお休みしたけど、授業が終わった時間にママと一緒に教科書を取りに行ってみる?』など、お子さんが安心できる方法をいろいろ試してみるといいのではないでしょうか」(市田先生)
心配性の子も、成長するにつれて今よりもいろいろなことを経験していきます。そんな中で、「一つの結果に結びつけていた失敗の経験も、今回は大丈夫だったな、と本人自身が気づいていくんです」と市田先生。特に1年生は、学校生活に慣れることで心配性が改善されていく部分もあるかもしれませんね。
さらに、「臨床している中で、心配性のお子さんと几帳面な親御さんが組み合わさると、その心配性傾向は強まりやすいように感じます」と市田先生は続けます。
「よく、親御さんから『わが子に対して何をしてあげたらいいですか?』と聞かれるのですが、私は『何かをしてあげるのと同じくらい、余計なことをしないというのも大切です』とお話しします。というのも、さまざまな成長段階における経験や、人との出会い・マッチングにより、お子さん自身が、自分の力で変化する部分も大きいからです。
子育てには『親がこう働きかけたら、子はこう育つ』という明確な答えはありません。なので、親御さんが育児に対して自信がなくなったり、心配な気持ちが大きくなった時には、『お子さんの失敗に親が気構えて不安がるのではなく、失敗も経験のうちだ! くらいの気持ちで見守りましょう』とお伝えしています」(同)
親があまりあれこれと気負いし過ぎず、どっしりと構えることも大切なのですね。ちなみに、どっしりと構えるのは、簡単なようでとても難しいことだと思うのですが、口を出さないこととは違いますか?
「そうですね、そこは難しいところなのですが、適切に口は出してあげてほしいです。例えば、喜びや不安、怒りなど、お子さんが感情を爆発させているようなとき。『その気持ちはウキウキっていうよ』『心配になってドキドキしているんだね』『納得いかなかったんだね』など、それぞれの感情に共感して、言葉を乗せてあげてください。
感情をコントロールできるようになるには、まずその感情を自覚することから始まります。怒りや不安などのネガティブな感情も、否定するのではなく、まずは共感してあげることが、豊かな感情が育つ手助けになるのだと思います」(同)
学校ではフォローできない部分だからこそ、ご家庭でやってあげてほしいと先生は仰います。また、社会通念上の良い・悪いを教えることも大切ですが、「ママもそれは悲しいよ」「びっくりするよ」などのように、親自身の感情として見せるのも大切だそうです。
最後に、子どものことを心配しすぎないための「心得」のようなものはありますか?
「子どもというのは、生き物です。大人ももちろんそうなのですが、子どもはより本能的です。『生き物なので、親の思うようにはならない』と念頭に置いておくと良いのではないでしょうか。
けれど、だから何もしない、させないということではありません。お子さんがチャレンジし続けられるように『サポート』をする。また、お子さんが不安や怒りなどのSOSを出していたらキャッチして、まずは何が起きているのか情報収拾をする。それが親にできることだと私は考えています」(同)
育児とは正解がないものだからこそ、悩み・考える時もたくさんあります。しかし、そうした親の姿を見せることも、「困ってもいいんだ」という子どもの学びにつながるのだとか。困っても悩んでも、試行錯誤して前に進む。それは子どもだけでなく、私たち親自身にできることでもありますね。
長い育児期間の中で、親も子も困難に感じる局面はたびたびあります。そんなときも、「今はまだ出来なくてもいずれは成長していく」と前向きに捉えていけたらいいですね。
(取材・執筆:代 麻理子)
精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
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