松尾七重(まつお ななえ)
千葉大学教育学部教授・副学部長。
専門は数学教育学。図形の概念形成や幼児期からの算数教育についての研究を長年行っている。
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学校・まなび
年長 2017年2月9日の記事
小学校の算数科の領域のひとつに「図形」があります。最近、この図形に対する子どもの理解力が低下してきているのだそうです。「算数なんてまだ先のこと……」と思われるかもしれませんが、こと図形に関しては、入学前からの遊び体験が図形理解の基礎を作るのに重要なのだとか。
そこで今回は、算数・数学の学習指導を研究する千葉大学の松尾七重先生に、図形問題を理解するのに必要な図形感覚の高め方について伺います。
●図形の感覚を育てる、パズルや積み木遊び
算数については、「図形」でつまずく子が多いと聞きますが、実際はどうなのでしょう?
松尾 「図形は、数よりも見た目がわかりやすいためか、子ども自身は苦手意識を持つというよりも、むしろ楽しいと感じているのではないかと思います。
ただ、これはしっかりと統計をとったわけではないのですが、教育現場の先生方の報告を聞いていると、以前に比べて、子どもの図形に対する感覚がやや低下していると感じることも多いようです。
『図形の感覚がある状態』というのは、図形をもとに物の形を認識できる、図形の特徴がとらえられる、図形のよさがわかるといったことで、算数・数学の図形学習の理解の基礎となるものです。
図形の感覚が低下している原因のひとつが、パズルや積み木といった図形の感覚を育てる遊びをすることが少なくなっているためと考えられます。特に立体に関する感覚が伸びていないのは、最近の子どもたちの遊びがテレビやスマホなどのゲーム中心になっているためかもしれません。
ゲームにも様々な種類があり、図形に関するものや、立体感のある画面で遊べるものも多いため、一見すると図形の感覚が育つ要素があるように思えますが、実際にはそうでもないようです。単純にゲームの作り方の問題なのかもしれませんが、そもそも画面上で操作するだけのバーチャルなゲームは、図形の感覚を養うのには向いていないのではないかと思います。
ゲームのように、見せられたものをそのまま見るのではなく、自分で見ていくこと、特に小さい子の場合、手を使って実際に図形を動かしたり、組み合わせて作ってみたりという経験がとても大事です。
例えば、直角二等辺三角形のピースを組み合わせる遊びがあります。下の図のように三角形を組み合わせて四角形を作る、そこに新たにピースを加えると、平行四辺形や台形などまた違った形になる、あるいは同形で大きさの違うピースを加えて金魚や鳥などの形を作ることもできます。こうした遊びをどんどんやっていくことで、図形を見る目が育ってくると言われています」
二等辺三角形を組み合わせた基本的なパターン。
三角形の組み合わせで、いろいろな形ができることが理解できます。
●遊びの要素が算数の「図形」につながっていく
パズルや図形遊びをした場合とそうでない場合では、将来違いが出るのでしょうか?
松尾 「多くの体験をしたからといって、図形の成績がすごくよくなるという研究結果があるわけではありませんが、パズルや図形遊びをたくさん経験することで、小学校で習う図形の問題は、比較的楽に解けるようになるのではないかと思います。これらの遊びには、中学校の授業にもつながる要素があります。
例えば、先ほど挙げたような二等辺三角形を組み合わせる遊びを経験することで、ひとつの図形の中に様々な三角形が入っていることがわかります。これは小学校の授業で習う図形探しと同じです。さいころの展開図なども、実際にブロックや箱などの立体を使った遊びをしていないと難しいでしょう。『やってみること』で、頭の中で図形をイメージできるようになり、最終的に問題を解くことへとつながっていくわけです。
また、図形の学習に取り組むときに、小さい頃から遊びを通して、図形の体験をたくさんしてきた子とそうでない子とでは、図形に対する取り組み方が違ってくるはずです。少なくとも、図形で楽しく遊んできた子は、苦手意識を持つことなく『どれどれ、やってみようかな』と、意欲をもって取り組めるでしょう。
こうした遊びは入学前から楽しんでほしいですね。『勉強』を始める前のほうが純粋に遊びとして楽しめるためか、豊かな発想で遊びを展開することができるからです。園でも体験はできますが、家庭でも取り組むことで、図形に対する感覚を豊かにすることができます。今からでもぜひ、ゲームに費やす時間の一部を、実際に図形に触れて動かす遊びに取り組んでいただければと思います」
松尾先生、ありがとうございました。
パズルや積み木遊びにそんな重要な意味があるとは思いませんでした。
次回は、これらの図形に親しむ遊びについて、さらに詳しくうかがいます。
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