精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年6月3日の記事
臨床経験が豊富な児童精神科医の市田典子先生にお悩み相談をする当連載。小学校に入ると、幼稚園や保育園の時よりも、自分の意見を伝えることが求められるようになります。ハッキリと意見を言うのが苦手な子のママは、悩んでしまうこともあるのではないでしょうか? どんなふうに向き合うべきかを伺いました。
わが家の長男もそうですが、子どもが自分の意見をハッキリと言えないことに、悩んでいる保護者も多いよう。自己主張はこれからの時代、ますます必要になってきそうですが、親はどう働きかけたらいいのでしょうか?
「『ハッキリ言える/言えない』というのは、それぞれの子の性格的なものです。ハッキリ言えない子は、『人が嫌な思いをするんだったら、自分が引き下がろう』と考える子なんですね。『自分の考えを言ってもいいんだよ』と言われても、その子にとっては意見を言う方が負担に感じるため、言わずにいることを選択しがちになります。
それは裏を返せば、人の気持ちがわかる優しさを兼ね備えているということです。低学年のうちは、『自分の意見が言えない子』と短所に捉えて心配するよりも、『優しい子』という長所と捉えて認めてあげてください」(市田先生)
ただし、「自分の意見を言うこと」の大切さは、低学年のうちから伝え続けることが大切と市田先生。
「低学年のうちはまだできなくても、徐々に、言った時の負担感と言わなかった時の負担感を子ども自身が比べて、言うか言わないかをその都度、自分で判断できるようになるといいですね。そのためには、『意見を言ったほうがいいよ』と伝えるときに、言わなかったらどうなるか、言ったらどうなるかという具体的な結果を保護者が一緒に予測してあげた方が、意見を“言わない時の負担感”を理解しやすくなるかもしれません」(同)
ただ、言えるようになるには本人のタイミングがあるため、「すぐにはできるようにならない前提で見守ってほしい」と市田先生。本人が「言った方がいい」と思えるきっかけがあると、少しずつ言えるようになることが多いそうです。
「少しずつ自分の気持ちを言えるようになるためには、本人がする失敗体験が大切です」と市田先生は続けます。
「例えば、本当はイヤだなと思っていても、友達に誘われるままにいたずらをして、怒られてしまったというような体験。さらっと『自分はやらないよ』と言えてしまう子は巻き込まれずに済みますが、自己主張の苦手な子は、つい一緒にいて怒られる、というような体験を繰り返すかもしれません。たびたび嫌な思いをする中で、怒られた時の大変さと自己主張する時の大変さとを比べて、自己主張する方が負担感が少ないな、と思えば、そちらを選択するようになるでしょう。
得意でない行動も、繰り返すことで負担を感じにくくなるものですし、自己主張した体験が成功体験になれば、脳が自己主張することを“適切な行動”と認識するようになります。ですから、お子さんが頑張って自分の意見を言った時には、内容の適切、不適切にはこだわらず、『自分の意見を言った』という行為自体について、ぜひ褒めてください。繰り返し褒められることで、自信をもって自分の意見を言えるようになるはずです」(同)
子ども本人が小さな失敗を繰り返し、「ここでは言ったほうがいいな」を学んでいくのですね。
「ハッキリ言えない子」に対して、他に心がけたほうがいいことはありますか?
「吐き出せる場所を作ってあげることを意識してください。学校だったら、担任の先生に言えないことでも、カウンセラーや養護の先生には言える…などですね。そういう場があるんだよと教えたり、家で話を聞いてあげるだけでも子どもは随分楽になると思います。
話を聞くときは、やみくもに『頑張れ』というのではなく、今やっていることを聞いて、『頑張ってるんだね』と認めてあげましょう。自己主張の少ない子は飄々とやりこなしているように見えがちで、周囲がその頑張りに気づかないことも多いからです。
ちなみに『自分の意見を言う』というのは、世の中の風潮として出来たほうがいいとされる場面も多いものの、必ずやらなければいけないことではありません。『言いたいことが言えずにストレスを感じる』など本人にとって不調の原因になるわけでなければ、無理やりに変えようとしなくても問題はないと私は思います」(同)
子どもの話を聞いてあげるとき、気を付けることはありますか?
「親は、話を聞くとどうしても解決してあげたくなりますが、『大変だったね。大変な中、よくやれているね』と現状を受け止めるだけでいいんです。お子さんに必要なのは対処法ではなく、話を聞いて自分を認めてもらえる体験そのものだと思います。対処法はそのついでに、もしやってみるならこんな方法もあるよ、というぐらいに伝えることで十分です。
また、感情を受け止めるとき、必ずしも『話す』必要はありません。お話しが得意な子もいれば、書くのが得意な子もいます。後者なら、日記や手紙に『書く』ことで感情を発散できれば、随分と気持ちが軽くなるはずです。話す能力と書く能力は別物なので、お子さんがどちらの方が得意かをよく観察して、負担の少ない方法を一緒に探せるといいですね」(同)
ちょっと話がそれますが、先ほど「失敗体験の重要性」を伺いました。失敗と挫折は違う、挫折体験は人の自信を奪っていくとも聞いたのですが、失敗を挫折にしないためには何を意識したらいいでしょうか?
「失敗させないようにと親が先回りして色々やるのはよくありません。お膳立てされた中で起きる失敗は、そうでない失敗に比べて挫折感が大きいもの。お膳立てされた中で失敗してしまうと、子どもは『あんなにやってもらったのに、自分はできない…』に直面しなければならないからです。逃げ場を残しておくという面でも、親があまり先回りしないほうがいいと思います。
それに、『次はこんなふうに準備すればどうかな?』と子ども自身が創意工夫する幅がある方が、失敗からの学びも大きいですよね。お子さんが創意工夫した時には、結果が伴わなくても、チャレンジしたこと自体を褒めてあげてください。そうすることで失敗体験ではなく、自分なりに頑張った体験と捉え直すことが出来ますよ」(同)
保護者自身が「こんなにやってあげたのに…」という言い方・考え方にならないためにも、小学生になったら親が先回りするのは安全管理くらいにとどめておいたほうがいいということですね。ついあれこれと口や手を出したくなってしまいますが、そこはグッとこらえて“待つ”ことも、親の役目として大切だと言えそうです。
(取材・執筆:代 麻理子)
精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
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