精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年5月28日の記事
小学校入学前から入学後に生じる育児のお悩みについて、児童精神科医として臨床経験豊富な市田典子先生に伺う当連載。第7回は、(1)自分が強いお子さんについてのお悩み、(2)子どもの「うそ」を保護者はどう捉えたらよいかの2つのテーマでお話しを伺います。
いわゆる「我(が)が強い」子は、意見をハッキリと主張できるという素晴らしい面もある一方、周りに合わせようという意識が薄く、お友達とトラブルを起こしがちで困ってしまう…とお悩みのママもいるようです。わが家も末っ子はそんなタイプなのでヒヤヒヤしてしまうのですが、我が強い子には親としてどのように関わっていくのがいいのでしょうか?
「もともとの性質として協調性がある子もいますが、『我が強い』タイプのお子さんでも、成長していくうちに理屈を理解することで協調性は身に付きます。我が強くてトラブルを起こしがちという子には、相手の気持ちをうまくイメージできるように教えてあげるのがいいでしょう。お子さんの言い分は否定せずに聞いたうえで、客観的な意見として『相手の胸の内は、こうだったんじゃない?』という推測を話してあげるんです。
うちの息子は中学1年生ですが、卒業式や入学式など、じっと聞いている行事が嫌いです。でも、『そういうのをちゃんとやりたい子もいるんだよ』と伝えたら、『えぇー、いるのかよ、そんなやつ…』と言いながら、『俺は嫌だけど、そんな子がいるなら仕方ないか』と理解して、前よりも行事への抵抗感が減ったようです。いろいろな考え方、感じ方をする人がいるということを、タイミングごとに話すのが良いのではないでしょうか」(市田先生)
大人もそうですが、他人の気持ちや考え方に、言われて初めて気付く…ということは少なくないですよね。
「『自分と他人の違いが理解できる』ことを、心理学的には『自他分離』と言います。“自分の世界”が強い子は自他分離をするのが難しいことがありますが、本人のめばえ、育ちを待つしかありません。自他分離を6年間かけて学んでいく場が小学校だと私は考えています。
1年生の今、上手にできなくても、6年間かけて練習を積んでいくと考えましょう。学校での体験をもとに、大人の解説がなくても自然と自他分離をできていくお子さんもいます。体験だけでは上手に理解を深められないお子さんもいますが、『どうして分からないの』と嘆くのではなく、分かるように解説することが必要で、その結果、理解が深まればよい、と考えましょう」(同)
我が強いと対人関係のトラブルも心配なのですが、実際にトラブルが起きた際は、どのように対応すればいいでしょうか?
「他人と関わりながら生きていく以上、どんな人でも、トラブルの無い人生なんてあり得ません。トラブルが起きたら対処すればいいだけ、親は子どもの尻ぬぐいの係だと思いましょう。まずは事実関係の確認と合わせて本人の気持ちを“否定せずに”聞き、その上で、相手の気持ちについて『こう感じたんじゃないかな』と、保護者の方からお子さんにきちんと話をすることが必要です。
故意でなかったとしても相手を傷つけるようなトラブルの場合には、親が謝る姿をきちんと見せましょう。親が謝る姿を見て、子どもは子どもなりに『親にこんなことをさせないようにしよう』など、いろいろな思いを抱きます。また、その姿は子ども達が人に謝る際のモデルになります。
子どもは、見たり聞いたりした体験をもとに成長していきます。『あなたは悪くないわよ』と味方でいることも必要ですが、『迷惑をかけるのはお互い様』と失敗をきちんと認め、親が社会的に適切な姿を見せることが、お子さんの『社会性のめばえ』の手助けになると思いますよ」(同)
ちなみに、対人関係のトラブルに限らず、子どもに言い聞かせるときに注意したいポイントがあると市田先生。
「何かを言い聞かせるときは、最後に『分かった?』と聞かないことです。『分かった』と答えるまで話が終わらないとなると、お子さんは理解していなくても『分かった』と答えてしまいます。すると同じような失敗が再び起きた際、『あのとき分かったって言ったでしょ!』となってしまうのです。
ですので、お母さんのストレスを減らすためにも、理解させることではなく、伝えることを目的に。話を聞いてくれたらそれでOK、『分からないかもしれないけど、そういうことだから』で終わるくらいがちょうどいい伝え方だと思います」(同)
次に、子どもがつくうそについて。何かトラブルが起きた時に自分から言わなかったり、「やってないよ」とうそをついたり…。ママ達にとって悩ましい子どもの「うそ」について、どう捉えたらいいでしょうか?
「大人から見てうそをついていると思うことでも、子ども自身はうそをつこうと考えているわけではありません。ただ怒られないようにしようとしただけなんですね。大人は『うそをついて逃げようとしている』と理屈で考えて非難しますが、子どもは本能的な自己防衛としてやっていることが多いのです。
お子さん自身も自分が悪いことをしたと分かっていて、それを隠す行動として、事実とは違うことを言っているだけだと捉えてみてください。それを踏まえて、『悪いことをしたと思ったら、まずは正直に話してごめんなさいを言おう。隠そうとすると、もっと悪いことになってしまうよ』というのを上手に教えてあげるといいでしょう」(同)
ただし、それでも子どもは隠すし、うそをつくものだと市田先生。
「ご自身の子ども時代を思い返せば、分かりますよね。『子どもはうそをつくもの』と思って対応するくらいがいいのではないでしょうか。怒るというより、『ママはお見通しですけど?』と呆れるくらいの方がいいかもしれませんね。そこから徐々に『お見通しなら、うそをついてもしょうがないな』と学んでいけば、本質的にすごく悪いことはしなくなると思います。
逆に『うそはダメ、絶対ダメ』とダメダメ言っていると、子どもはダメなことをイメージしやすくなってしまいます。すると、ふとしたタイミングで『ママを困らせてやろう』という気持ちになったとき、お母さんからたくさん教えられているダメな行動を選択して、実践してしまうんです。
お子さんにしてほしくないことを伝えるときは、保護者自身の感情とつなげて『お母さんは悲しく思うからやらないで』や『嫌な気持ちになるから、ちゃんと言ってね』といった伝え方を心がけるといいでしょう」(同)
子どものうそは防衛本能から出る自然なものと考えると、気が楽になりますね。また、「ダメ」という言葉で一緒くたに叱るのではなく、気持ちを乗せて伝えるということを意識して子育てに臨めたらいいですね。
(取材・執筆:代 麻理子)
精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
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