精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
双子の二児の母。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年5月27日の記事
子育てをしていると、「こんな時はどうしたらいい?」「私の育児は間違っている?」など不安になってしまうこともあるのではないでしょうか。子育てのお悩みについて、臨床経験豊富な児童精神科医の市田典子先生に伺う当連載。第6回では、子どもが暴力的な言葉を発したとき、保護者はどう対応すればいいかをお聞きしました。
自分の思い通りにならないことがあると、「ママのバカやろう!」「ママなんか大っ嫌い」、ひどい時には「死ね」とまで…。外でもこんなことを言っているのかと心配になって心配になってしまいますが、こうした言葉を受けた時、保護者はどのように対応するのがいいのでしょうか?
「私自身も、子ども達からひどい言葉を浴びることがあるので(市田先生は中学一年生の双子の男子のママ)、お気持ちはよく分かります(笑)。基本的には、ご自宅でママや家族にそういった言葉を言えるのは、健全な関係を築けていると考えてよいと思います。家で喧嘩や反抗ができるのは、『ここでは完璧な自分じゃなくても大丈夫だ』『感情を出していい場所なんだ』とお子さんが認識しているから。家でそうした言葉を言う子どもは、外では言っていないことがほとんどです。
子ども達は、親が思っている以上に外では頑張っています。特に1年生の場合、学校への入学はものすごく大きな環境の変化で、子ども自身も知らず知らずのうちにストレスを抱え込んでいることが多いです。そのため、家に帰ってきたらイライラしてママに八つ当たり…というのはむしろ自然なこと。わが子と健全な関係を築けているからこそ、感情を表すことが出来ているんだなぁと捉えてみてください」(市田先生)
子どもが暴言を口にするのは、感情に対し、適切な言葉を当てはめられていないからだと市田先生は続けます。
「人間はもともと快・不快の“感覚”を持って生まれますが、“感情”は勝手に育っていくものではありません。例えば、赤ちゃんで考えてみると、お母さんが見えなくなったら泣いてしまう時期ってありますよね? お母さんが目の前にいる状態が赤ちゃんにとって快適であり、見えなくなってしまうと不快になるから泣く。その時に『寂しい』『不安だ』といった感情を表す言葉は、実は赤ちゃん自身まだ持っていないのです。
お母さんや周りの人が『寂しかったんだね』『見えなくなっちゃって不安だったのね』と声をかけて初めて、『この感情を寂しいというんだ』『これが不安という感情なのか』と学んでいきます」(同)
感情が後天的なものだというのは驚きです。
「最初は感情自体にまだ名前がついておらず、周囲とのコミュニケーションを通じて感情へのラベルを獲得していくんですね。幼いうちは知っている言葉の数も少ないため、不快な、自分ではコントロールできない気持ちを表すために、『死ね』や『バカ』、『嫌い』といった言葉がとっさに出てしまう。
それは自然なことではあるのですが、お子さんが本当に伝えたいことはネガティブな言葉そのものではなく、その中にある細やかな感情である場合がほとんどです。そのため、『ママだったらそんな時にはこう言うよ』といったように、別の言葉での表し方を伝えてあげるといいでしょう」(同)
ママ自身も感情への適切な名づけが分からない場合、一緒に学んでいく、一緒に考えていく、で十分とのこと。その上で、内面の細やかさに気づける子もいれば気づけない子もいて、それは子どもそれぞれの個性と捉えていいそうです。
言葉遣いを注意しても、なかなかすぐには直らないもの。「そんな言葉は使っちゃダメだよ」と伝えたそばから、「死ね!」「バカヤロウ!」などと返されると、思わず匙を投げてしまいそうになります…。
「昔はおじいちゃん・おばあちゃん、ご近所の人などとの関係が今よりも身近で、子どもが悪い言葉を使って親に怒られた後に、どうしてダメなのかをわかりやすく諭してくれていたんですね。それが、今は核家族が主流になり、お父さん、お母さんが注意する役割も、諭す役割も両方担うので大変ですよね。パパとママでうまく役割分担できればよいですが、ご家庭によっては、一人二役をこなさなくてはいけないこともあると思います。
親も人間なので、暴言をぶつけられてイラっとするのは当然です。そんな時には怒った後でも構わないので、部屋を別にするなどして一旦距離を置き、ご自身の気持ちを静めてから、やめてほしい理由を説明してあげてください。『さっきの「死ね」という言葉は、ママが言われたら悲しくなるからやめてね』など、ご自身の感情とつなげて伝えてあげるといいでしょう」(同)
ママとパパで伝え方が一致していなくてもいいのでしょうか?
「むしろ違ったほうが子どもにとっては様々な感情表現を習得するいい機会となります。親だけでなく、いろいろな人の様々な感情の表し方を見聞きする中で、子どもは自分にフィットする感情の表し方を習得していきます」(同)
子どもが暴言を口にした時に、他にも伝え方で意識したほうがいいことはありますか?
「『いい・ダメ』だけだと『言うか・言わないか』の二択になってしまいますよね。小さいうちは理解が追いつかないのでその二択でもいいのですが、いい・ダメの二択の理解のままだと、自分の気持ちを外に出さずに、しまい込んで溜め込みやすくなります。
成長するにつれ、不適切な表現については『周りの人が聞いたらびっくりするよ』『そんな言葉を発していたら、気持ちが正しく伝わらなくて、余計に残念な気持ちになるよ』などと、その言葉を発することで起こり得る状況を併せて伝え、他の人に伝わりやすい言葉や説明の仕方を一緒に考えてあげてください」(同)
ちなみに、小さいうちは、男の子は女の子よりも言語表現やコミュニケーションが苦手であり、衝動的なことが多いそう。感情を出せているのは、子どもが家庭に安心を感じているからだと捉えると、ママのイライラも軽減されそうです。
(取材・執筆:代 麻理子)
精神保健指定医。
筑波大学医学専門学群卒業。神奈川県立精神医療センター、国立精神・神経医療研究センター病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立中部総合精神保健福祉センターなどに勤務し、児童精神科医として数多くの臨床経験を持つ。
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