1950年代に子どもたちの身近な所に安全な遊び場を確保することを目的に世田谷区で始まった小学校の校庭開放事業(後の遊び場開放事業)が、1995年より学校施設を活用し、保護者や地域の協力を得ながら放課後の遊びの場を確保する「BOP(Base of Playingの略称=遊びの基地の意味)」に発展。さらに1999年に学童クラブと統合し、2005年に全小学校で「新BOP」事業として再スタートした。「新BOP」は、区内すべての小学校内にあり、すべてが公設公営。学童に所属する児童のほか、全学年の児童が利用できる。
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学校・まなび
年長 2019年5月10日の記事
学童潜入! 世田谷区・下北沢小 新BOPに行ってみた【後編】
世田谷区の学童利用が“3年生まで”なのはどうして?
さまざまな自治体の学童に取材し、今どきの学童について調査している本連載。第2回では、世田谷区の「下北沢小 新BOP(ボップ)」にお邪魔しています。世田谷区では、区内にある61の小学校のすべてで「新BOP(Base of Playing)」という事業を展開。その利用方法の一つに「学童」があり、親の就労等を問わず利用できる「BOP」と合わせて「新BOP」として運営されています。
前編では、下北沢小 新BOPでの子どもたちの過ごし方について伺いました。後編では、学童からの自立をどう支援していくかというお話をお聞きします。
●自立を支援するため、学童は原則“小3”まで
世田谷区では、学童の利用は小3までと定められています。なぜなのでしょうか。
「小4からは、自分で考えて、放課後の時間を使えるようになってほしいからです。保護者にとって学童は、確かに安心な場所かもしれません。しかし、いつまでも大人に決められた場所へ行き、みんなと同じようなスケジュールで過ごしていれば、その子は自立の機会を失ってしまいます。
放課後は、小学生にとって自分でスケジュールを組み立てられる貴重な時間。宿題や習い事、家庭での役割などのやるべきことにどう時間を割り振るか、自由な時間を誰とどうやって過ごすかを考えることは、小学生生活の醍醐味です。我々スタッフの大きな役割の一つには、学童の子どもたちがそうした生活にスムーズに移行するための自立支援があると考えています」(下北沢小 新BOPの事務局長さん)
具体的には、どうやって支援していくのでしょうか?
「一番は保護者との連携です。保護者の方には、保護者会や個人面談などの場で、子どもが学童から自立するタイミングや、そのために必要なスキルについてお話ししています。
子どもは成長にともない、学童だけで過ごすことに違和感を抱き始めます。それを自立のチャンスとするためには、事前に学童を退会しても放課後を過ごせるように準備する必要があります。例えば、鍵の扱い方を知っておいたり、一人で留守番をする練習をしておいたりする必要がありますよね」(同)
こうした準備については、具体的なアドバイスもしているそう。留守番の練習であれば、小1の夏休みという日が長い時期に、少しずつ練習を始め、今日は5分、明日は10分、明後日は15分…と時間を伸ばしていくこと。また、留守番中は楽しく過ごさせることを優先に、「ゲームしていいよ」「好きなDVDを観ていてもいいよ」など子どもに任せること。都度、各家庭と話し合いながら、個々にステップを踏めるよう心がけているのだそうです。
ちなみに、新BOPでは17時からの30分を学習の時間と定めつつも、職員が宿題を済ませたかなど確認することはしていません。これも自立支援の一つで、「自分自身で帰宅時間に合わせて宿題の時間を決められるようになってほしい」(同)との思いからだといいます。
●小4以降の利用が多い「児童館」。新BOPとの連携も
学童を退会した子どもたちは、「BOP」として新BOPに遊びに来ることもできますね。
「そうですね。学童の子もBOPの子も同じ場所で遊べるのは、新BOPのいいところだと思います。一人で安全に移動でき、留守番ができるようになれば、BOPの利用でも十分になってくるんですよ。
BOPと学童との違いは、利用時間が短いこと(BOPは3~9月が17時まで、10~2月が16時半まで)、利用料やおやつがないこと、土曜日などの学校休業日の昼食は帰宅してとること。また、帰宅時間は保護者と約束するルールになっています。誰がBOP利用で来ているかを職員が把握できるように、下北沢小 新BOPでは部屋に入ったら名簿に〇をして名前の書かれたバッジを付け、帰宅する際は名簿に×を付けてバッジを外すことになっています」(同)
前編では、小学校とはもちろん、休日の校庭開放を運営する「遊び場開放委員会」やPTAとも連携し、地域で子育てをしているというお話がありました。地域と子どもがつながることは、学童を退会して以降の安心、安全にもつながりそうですね。
「地域の目があるだけで、私たちにも安心感があります。世田谷区では、学童が小3までと定められていることもあり、下北沢小 新BOPでは小3まではおもに新BOP、小4以降はおもに児童館と、遊び場のすみ分けが自然と起きるように。後者は、代田児童館と、北沢中学校の空き教室を使った『きたっこ』という遊び場が、おもな居場所となっています。
先ほども触れたとおり、児童館長も新BOPの責任者であるため、週に一度の児童館の職員会議では相互の情報共有を行っています。また年に3回、児童館の職員が新BOPに来て綱引きなどの遊びを指導する『BOP de 児童館』という催しがあり、子どもと職員の交流の機会になっています」(同)
それぞれのスタッフが新BOPを中心としてつながることで、子どもたちが自由で安全な放課後を過ごすことができる――。世田谷区の学童取材からは、子どもたちのためにつながりあう大人たちの大きな輪が見えた気がしました。
(取材・執筆:有馬ゆえ)