1950年代に子どもたちの身近な所に安全な遊び場を確保することを目的に世田谷区で始まった小学校の校庭開放事業(後の遊び場開放事業)が、1995年より学校施設を活用し、保護者や地域の協力を得ながら放課後の遊びの場を確保する「BOP(Base of Playingの略称=遊びの基地の意味)」に発展。さらに1999年に学童クラブと統合し、2005年に全小学校で「新BOP」事業として再スタートした。「新BOP」は、区内すべての小学校内にあり、すべてが公設公営。学童に所属する児童のほか、全学年の児童が利用できる。
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学校・まなび
年長 2019年5月9日の記事
学童潜入! 世田谷区・下北沢小 新BOPに行ってみた【前編】
世田谷区独自の放課後事業「新BOP」って?
一口に「学童クラブ(以下、学童)」といっても、その特徴は自治体ごと、施設ごとに多種多様。本連載では、都内を中心にさまざまな自治体の学童に取材を行い、今どきの学童の実態を調査していきます。
第2回で訪れたのは、世田谷区にある「下北沢小 新BOP(ボップ)」。世田谷区の学童への入所要件もおさらいしつつ、同区の学童がどのように運営されているのかを伺いました。
●世田谷区独自の放課後事業「新BOP」
子育て支援、教育、そして福祉に力を入れており、近年は子どもの数が急増していることでも知られる世田谷区。実は、ずいぶん前から独自の放課後事業「新BOP事業」を実施しています。
世田谷区で区内の小学校に「BOP(Base Of Playing)」という場所ができたのは1995年。小学校の校庭開放事業(のちの遊び場開放事業)から発展した事業で、保護者や地域住民による運営のもと、子どもたちの放課後に安全な遊び場を提供しようという試みでした。
2005年からは、全校で「BOP」と「学童クラブ」を統合した「新BOP事業」が開始。現在、世田谷区内に61校あるすべての小学校で展開されており、すべてが公設公営です。利用方法は、「BOP」と「新BOP学童クラブ(以下、学童)」の2種類。前者の「BOP」は全児童が登録できるもので、出入りなどは家庭との約束のもと自己管理。後者の「学童」は保護者就労等の条件下で登録するもので、出入りなどは職員の管理のもと行います。
世田谷区の学童の利用要件を見てみましょう。
■世田谷区の学童利用要件(2019年3月現在)
○対象となる児童=放課後の時間帯、就労等の理由から保護者が家庭において保護・育成にあたることができない区内在住、または区立小学校在籍中の小1~小3の児童(個別的配慮が必要な児童は小6まで)
○利用時間帯
・授業のある日:放課後から18時15分まで
・授業のない日:午前8時15分から18時15分まで
○休業日=日曜日・祝日・年末年始(12月29日から1月3日)
○費用=月額5000円(おやつ代含む)
○活動場所=校内にある「新BOP」の部屋、小学校の校庭、体育館、図書室など
○お迎え=小学校内にあるため、子ども一人での通学(通所)が基本。ただし、新1年生の入会当初や悪天候等によりお迎えを要する場合も
○おやつ=提供(土曜日は持参)
〇授業がない日の昼食=お弁当を持参
2018年度については、全61校の全児童のうち59%が「BOP」に登録し、約13%が「学童」に登録しているそうです。長い歴史を持つ新BOPには、どんな特徴があるのでしょうか。
●下北沢小 新BOPってどんなところ?
下北沢小 新BOPのある下北沢小学校は、守山小学校と東大原小学校が統合されて2016年にできた学校。2018年にはさらに北沢小学校が統合され、2018年5月時点で665人の児童が在籍しています。利用者は小3までの児童が多く、2018年度はBOPに404人、学童に110人の登録があったそうです。事務局長さんに、子どもたちの過ごし方についてお聞きしました。
「ここでは、2部屋ある『新BOP室』が主な遊び場です。1つは主に学童の子がおやつを食べる部屋で、隣の事務室にはミニキッチンが付いています。おやつには、お菓子や果物などが出ます。もう1部屋は、BOPと学童の両方の子が使う遊び部屋。おもちゃや本などがたくさんあり、学童の子のランドセルロッカーもここにあります。
授業などで使っていなければ、校庭や体育館でも遊ぶことができます。体育館や校庭で遊ぶ際は、新BOP室の子ども全員に参加者を募り、指導員と一緒に移動します。今はドッジボールが流行っています」(下北沢小 新BOP事務局長さん)
ここの指導員は、ほとんどが教職免許や保育士、介護福祉士資格を持っており、世代も20~50代までさまざま。また「Playing Partner」と呼ばれる臨時職員として勤務するのは、大学生や子育てが終わった主婦の方々で、元PTA会長、主任児童委員、青少年委員といった肩書を持つ人も多いそう。「そのため、子どもの扱いに慣れていたり、子どもに親身に関わってくれたりする人が多いんです」(同)。
臨時職員のなかにはピアノの先生や画家もいて、ひとり3分の簡易なピアノ教室を開いたり、お絵かきなどのイベントで講師を務めてもらったりと、特技を生かしてもらうこともあるそうです。
●「下北沢小 新BOP」の学童での過ごし方は?
この学童でも、基本的なタイムスケジュールは一般的な学童とほぼ変わりません(「学童の1日のスケジュール。平日の放課後は? 夏休み中は?」記事参照)。平日は下校後、校舎と同じ敷地にある新BOP室に来室し、連絡帳を置いたらランドセルをロッカーへ。自由遊びの後、15:00からおやつの時間。17:00から17:30は学習の時間(宿題・読書)ですが、帰宅時間によって各々で調整してもいいそうです。
「新BOPの目的のひとつは、友だち同士が学童に入っているかどうかを問わず、一緒に遊べること。ですから、基本的に遊ぶスペースも同じですし、両方が同じイベントに参加できます。イベントは、お話し会や映画会、工作といった文化系のものと、ドッジボール大会や『夏のスプラッシュタイム』(水遊び)といった運動系のものが、それぞれほぼ月1回ペースで行われます。
なかでも、10月に行われる『代田児童館こどもまつり』は一大イベント。近隣の子どもたちが作った大規模ゲームや子どもたちの手作り雑貨などのお店が並び、地域住民の方々が飲食物の模擬店を出店し…と、指導員も子どもたちも1か月以上かけて準備をします」(同)
●それぞれの組織が連携し、「学童」の子も楽しめる配慮を
こうした地域とのつながりは、世田谷区の新BOPの特徴のひとつ。「地域での子育てが実現できていると思う」と事務局長さんは語ります。小学校とはもちろん、PTAや児童館など、すべての大人たちが密に連絡を取り合い、子どもたちのためを考えて調整し合うのだそう。
「小学校の公開授業に職員が見学に行くこともありますし、PTAの講演を聴講することもあります。児童館長が新BOPの責任者でもあるため、週に一度の児童館の職員会議では、新BOPと児童館の情報共有が行われます」(同)
土日など休日の校庭開放を運営する「遊び場開放運営委員会」の方々は、学童の子への配慮もしてくださるといいます。
「学童の子どもたちは、決まった時間は新BOPにいて指導員と過ごさねばなりません。たとえば、遊び場開放運営委員会主催で土曜日にイベントがあったとして、その条件に『保護者同伴』『お昼は一度自宅に帰ってごはんを食べてくること』とあったら、学童の子たちは参加できないんです。
こうした事情がわかったうえで、遊び場開放運営委員の方は初めから『このイベントの日、学童の子は何人いる? 〇時から〇時まで指導員と一緒に参加して、その後新BOP室でお弁当を食べる形なら参加できると思うんだけど…』というように提案してくれるんです」(同)
核家族が増え、一方で地域とのつながりが薄れたともいわれる都内の保護者にとっても、地域の方々が子育てに参加してくれるのはとてもうれしいことですね。後編では、下北沢新BOPの学童では、子どもたちの自立をどう見守っていくのかについてお聞きします。
(取材・執筆:有馬ゆえ)