東京大学理学部・大阪大学医学部卒業。1998年より大阪大学医学部にて教授を務める。弱視・斜視、眼瞼痙攣などの神経眼科が専門で、2010年には失明した患者の眼球に網膜を刺激する電極をつけ、光の動きを追えるまでに視覚を回復させる人工網膜の臨床試験に成功。デジタルデバイスが子どもの目に与える影響についても研究を重ねている。
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生活・しつけ
年長 2019年4月8日の記事
ゲームのやりすぎで視力が低下!? 子どもの目を守るには
子どもが大好きなゲーム機をはじめ、スマートフォンやタブレットなど、毎日の生活の中で接する様々なデジタルデバイス。急速に普及が進んだこともあり、長時間使った場合の目への影響は未知数です。今回は大阪大学教授の不二門 尚先生に、デジタルデバイスが子どもの目に与える影響や、目を守るために家庭でできることを教えていただきました。
●発達段階にある子どもの目に、デジタルデバイスは影響大!
子どもの生活の中にもすっかり浸透しているデジタルデバイス。以前からある小型のゲーム機やテレビゲームなどに加え、最近はスマートフォンやタブレットで遊ぶことも多いですよね。デジタルデバイスは目にどのような影響を与えるのでしょうか。
「紙の媒体に比べて近くで見ることが増えるため、ピント合わせの負担が大きくなります。特に、小さい機器は画面も文字も小さいため、必然的に近くで見たくなるもの。スマートフォンを使うときの視距離は平均20cmで、紙媒体の平均30cmより短いというデータがあります。違いはわずか10cmですが、ピント合わせの負担は約1.7倍。その影響で視力低下や斜視などの障害が起こりやすくなります」(不二門先生)
確かに、気づくと驚くほど近くで見ていることがありますね。大人より子どもの目のほうが、影響を受けやすいのでしょうか?
「大人の場合、ピント合わせの機能が完成していますから、スマートフォンなどを近くで見るときは“がんばって”合わせている状態です。一方、発達段階にある子どもの目は柔軟なため、近くにピントを合わせることも、長時間にわたって見続けることも、大人に比べて簡単です。その結果、長時間使ったあとで急に寄り目になる『急性共同性内斜視』という症状が起きて、もとに戻らない…といった症状の報告も増えています」(同)
また、新たに斜視になるだけでなく、生まれつき軽度の斜視だったのを進行させてしまうケースもあるそうです。
「まずは生まれつきの斜視がないか確認することが大切なのですが、子どもにとっては生まれたときからの状態が“普通”。斜視があっても自分では気づけません。ですので、
・何かを見ているところを頭上から見て、眼の向きがおかしくないか
・絵本などを片目で見ている(顔が正面を向いてない)ことがないか
などを、保護者がときどき確認しましょう。ストロボを使って写真を撮り、黒目の真ん中に光が入っているかどうかで確認する方法もあります」(同)
●デバイスの種類や使い方によって違いはある?
デジタルデバイスにはさまざまな種類があり、ゲームや動画鑑賞など使い方もいろいろ。それぞれの影響の差も気になります。
「タブレットやテレビ画面を使うゲームなど、目からの距離が遠いものほど負担は少なくなります。ただし、画面への映り込みがあると、ピント合わせとは別の負担が生まれます。たとえばタブレットを机に置いて使う場合は、天井の照明が映り込まないように注意しましょう。
動画と静止画での影響の差はあまりないのですが、VR、特にゴーグルのように頭部に装着して使う“ヘッドマウントディスプレイタイプ”のVRは注意が必要です。子どもは立体を見る機能においても発達途上にあるため、VRの使用が斜視につながることも。使用禁止年齢は医学的根拠にもとづいたものですから、きちんと守るべきです」(同)
大人も子どもも長時間使ってしまいがちなデジタルデバイスですが、一日あたりの使用時間はどの程度が望ましいのでしょうか?
「短ければ短いほどいいのですが、制限するのが難しいケースも多いと思います。そんなときは大人なら1時間、子どもなら30~40分ごとに最低でも2~3分程度の休憩を入れながら使うことが大切です。デジタルデバイスに限らず、休憩のときは太陽光を浴びるのがおすすめです。戸外に出て太陽光を浴びるのがベストですが、難しければ窓から外を眺めてもいいでしょう。目を閉じるなどして休ませることも有効です」(同)
●子どもの目を守るために家庭でできることは?
定期的に目を休ませる以外に、行うとよいことはなんでしょうか。
「部屋全体を明るくすること、太陽光をなるべく多く浴びることが効果的です。
・部屋全体を明るくする
たとえば、日本人と欧米人など瞳の色の違う人同士は、同じ光を見ても感じ方が異なります。欧米ではいくつかの照明を使って陰影をつける間接照明が多いですが、日本人の目には、シーリング(天井に直接取りつける照明)などで部屋全体を均一に明るくするほうが向くといわれます。子どもがリビングで勉強やゲームなどをして過ごす場合も、十分な明るさか確認を。大人が快適に本を読める程度が目安です。
・太陽光をなるべく多く浴びる
戸外活動には、遠くを見ることでピント合わせの負担を減らすというメリットもありますが、太陽光を浴びると、近視抑制効果を持つドーパミンが出ます。戸外活動を1日あたり1時間多くすることで、近視の進行が13%も抑えられるというデータがあり、海外では学校の休み時間に全員が外に出るようにして、近視の進行を抑えることに成功したという研究結果もあります。
外に出るのが難しい場合は日当たりのよい廊下などでもOK。1日あたり2時間程度が理想ですが、たとえ短時間でも効果はあります。」(同)
不二門先生によると、視力や目の状態は遺伝的要因と環境的要因の両方で決まるそう。環境的要因は心がけ次第で変えることができますから、子どものうちからデジタルデバイスの使い方を含め、“目にやさしい生活”を習慣づけてあげたいですね。
(取材・執筆:高柳涼子)