大室産業医事務所 代表
産業医科大学医学部医学科卒業。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医、医療法人社団同友会 産業保健部門を経て現職。専門は産業医学実務のほかメンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、健康リスク低減など。
現在、日系大手企業や独立行政法人など約30社の産業医業務に従事。著書『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)。
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週末・その他
小学1年生 2019年4月4日の記事
ママたちがついハマってしまうSNSについて、上手な付き合い方を学ぶ当連載。第1回では、自分を発信し、他人にリアクションを求めてしまうのは、人に備わる自然な欲求の一つだというお話を伺いました。それを踏まえたうえで、今回は、SNSで気力や体力を消耗せず、程よい距離感で付き合うための具体策を、メンタルヘルスの専門家である産業医の大室正志先生に引き続き伺います。
第1回では、SNSに投稿したくなるのは人として自然な欲求だと伺いました。中には、自分自身の感情をSNSで発散して、スッキリしたいという人もいそうですが、効果としてはどうなのでしょうか?
「よく、裏アカウントを作って愚痴や文句が多いつぶやきをするような方がいますよね。あれって実は、スッキリしているように見えて、自家中毒のような感じで精神的に不安定になっていく人が多いんです。ネガティブなことをずっと吐き続けるのは、精神的にしんどくなる行為なんですよ。
一部には、芸人さんの“キレ芸”のように、芸風としてやっている方もいるかもしれませんね。ただし一般の方は、吐き出してスッキリしたように感じても、それは一時的なもの。精神衛生的には良くないので、確固たる目的がない限り、オススメしません」(大室先生)
愚痴やイライラをSNSに投稿し、言語化することで、自分の脳がネガティブな感情を再認識してしまう、ということですね。気を付けたいところです…。
SNSを使っていると、やたらと他人の投稿がキラキラして見えることがあります。ときには嫉妬や羨望の気持ちが沸いて、心が乱されることも…。そうならず、平常心を保つためには、どうしたらよいのでしょうか?
「まずは、ご自身の承認欲求を、SNSなどの外部に求めすぎないことが重要です。
承認欲求を満たす基本の下地は、自分の存在をそのまま肯定すること。いわゆる自己肯定というものです。これは、自分のありのままを受け入れてくれる人、例えば、家族の存在などによって強化される方が多いです。
ただ、承認欲求をお化粧に例えるとしたら、自己肯定というファンデーションだけじゃ足りずに口紅やマスカラを塗りたくなる人もいるでしょう。ここから先は個々の人によって適切なやり方が異なってくるかと思うのですが、ファンデーションを塗らずに口紅やマスカラを多用すると少し違和感のある仕上がりになりますよね? 基本的には自分で自分の存在を肯定する、という下地が重要なのです」(同)
肯定してくれる存在を自分にではなく、SNSのような外部に求めてしまうと、不全感を抱きやすくなるということですね。
まずはありのままの自分を肯定する。そのうえで、他人のSNSを見るとき、やはり羨ましい感情がゼロとは言い切れないこともあると思います。あれもいいな、これもいいな…とついいろいろ求めてしまいがちですが、この気持ちとどう付き合ったらいいでしょうか?
「フロイトの精神分析学を発展させたと言われている、ジャック・ラカンという哲学者がいるのですが、彼は『人間の欲望は他者の欲望である』と言っています。つまり、『人は他人が欲しがっているものを欲するものだ』ということです。子どもはよく、別の子が持っているおもちゃを欲しがったりしますよね?」
わが家の子ども達も、常にモノの取り合いで喧嘩しています…。
「床にほっぽり投げているおもちゃでも、兄弟や友達が手に取ると『ダメー!』となって喧嘩が勃発するように、私たちは人が欲しがっているものを欲しがるようできているんです。
ただ、その欲望に振り回されると、幸せの青い鳥じゃないですが、いつも人の持っているものを欲しがるようになってしまいます。『あの人が高価なブランド品を持ってるから、私もブランド品を持ちたい』のように、価値判断を他人の言動に置いてしまうと、常に子どものおもちゃの取り合いのような状態になってしまいます。
人間には最初から人のモノが欲しくなってしまう欲望装置が標準設定でついている。それを前提として、どう折り合いをつけるかが、生きていく上での課題じゃないでしょうか。標準設定から一歩進んで、自分が本当は何が欲しいのかを見つけることが、大人になるということだと思います」(同)
人のモノが欲しくなってしまう欲望は生来のものだと認めた上で、どう付き合っていくかが鍵となるんですね。
「今はSNSなどで、人の持っているモノが無限に見えてきてしまう時代。そんな中で、あっちも、こっちも…を続けていると疲れてしまいます。むやみに振り回されないためにも、自分の軸で、欲しいものの優先順位を決めておけると良いですね。欲望自体を否定して、押し込めてしまうのはむしろ良くないので、あるということを認めた上で、どう付き合っていくかが大切です」(同)
生活の一部分として切っては切り離せないSNS。教えて頂いた注意点を心に留めて、ほど良い距離で付き合えると良いですね。
次回は4月に新しくママ友ができたときのSNS付き合いの心得などを、引き続き大室先生に伺います。
(取材・執筆:代 麻理子)
大室産業医事務所 代表
産業医科大学医学部医学科卒業。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医、医療法人社団同友会 産業保健部門を経て現職。専門は産業医学実務のほかメンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、健康リスク低減など。
現在、日系大手企業や独立行政法人など約30社の産業医業務に従事。著書『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)。
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