大室産業医事務所 代表
産業医科大学医学部医学科卒業。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医、医療法人社団同友会 産業保健部門を経て現職。専門は産業医学実務のほかメンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、健康リスク低減など。
現在、日系大手企業や独立行政法人など約30社の産業医業務に従事。著書『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年4月3日の記事
ママにも身近なSNS。新しいママ友との出会いもあるこれからの季節、SNSに触れる機会も増えるかもしれませんが、程よい距離を保ちながら使うにはどうするのがよいのでしょうか? メンタルヘルスの専門家であり、SNSが心身に与える影響に詳しい産業医の大室正志先生に「SNSとの上手な付き合い方」を伺います。
特に見たいわけでもないのに、つい見てしまうSNS。見終えた直後は「時間がもったいなかったなぁ」と後悔するのですが、なぜかまたやってしまう。この心理とはどういったものなのでしょうか?
「人間の欲望を喚起させるものの一つに『予測誤差』というものがあります。予測誤差とは、その字の通り、物事の結果と、自分が予想していたものとの間に誤差が生じる状態のことです。
ギャンブルや恋愛に人が夢中になるのは、この『予測誤差』が生じるためです。ギャンブルも恋愛も、自分の発した言動と関連はするけれど、たまに大当たりしたり、外れたりと思うようにはいかないもの。人間はそういったことに夢中になるように出来ています。
SNSも同じように、予測誤差が生じるように設計されています。自分の投稿にどんなコメントがつくか、『いいね』がいくつつくか…など、人間の欲望をうまく喚起して、気になってしまうように出来ているんですね。私は『SNSはギャンブルと恋愛を足して2で割ったようなものですよ』と言うんですが、人間がもともと持っている他人との関係欲求や社交心を、よくも悪くも刺激するのがSNSなのです」(大室先生)
つい見てしまうのは、人に備わっている欲望を呼び起こすように、そもそも設計されているからなのですね。
では、SNSにとらわれてしまわないよう、上手に距離を取るにはどうしたら良いのでしょうか?
「完全に断つ、という思い切ったやり方も一つです。ただ、それは仙人になるようなもので、これだけSNSが普及した今、実際には難しいでしょう。ママ友との連絡網としてLINEを使うといったことも聞きますし、実生活に必要な手段の一つでもあるでしょうから。
何であっても、ハマり過ぎずに趣味の範囲内でする分には、ストレス解消にもなり得ます。ただ、そこにハマって社会生活が侵害されるようになるとよくない。SNSも同様に、ほどほどに付き合うのがいいと思います」(同)
ほどほどに付き合うというのは、簡単なようでありながら、実際はなかなか難しいように感じます…。具体的なコツはありますか?
「SNSの使用に『目的』を持つと、程よい距離感で使用しやすいと思います。例えば、facebookには仕事につながるような内容だけアップして宣伝や告知に使う、もしくは家族との写真をあげ、旧友とやりとりするツールとしてのみ使用する。Instagramだったら、ひたすら作った料理の写真をあげて、いつかは本を出版できるようになりたい!…といった具合です。
また、自分の発信は楽しいことですが、制約があったほうがうまく使えます。仕事や家事・育児などやることがある場合、いくら楽しくて快感を感じても、ずっとはやっていられないですよね。逆に、無制限に時間を投入できてしまう場合は要注意です。
SNSを利用するときは、意思の力でなんとかしようとするのではなく、物理的な環境として見られない仕組みにする。スマホでいつでも見られるので、なかなか難しいかもしれないですが、見られない環境づくりを心がけることが、程よい距離を保つために有効な方法だと思います」(同)
例えば、寝る前にダラダラSNSを見てしまうなら、ベッドから離れたところに充電器を置いて、充電してから布団に入るようにする。通勤時間に…というときは「SNSチェックはこの駅まで」と決めて、そこを過ぎたら別のアクションをするよう習慣づける…など、できることはいろいろありそうです。
みんなからのコメントが欲しい、「いいね」が欲しいという承認欲求から、SNSにハマってしまう方もいますよね。特に子育てをしていると、どうしても子ども中心の生活で、自分自身の話をする場が少ないため、SNSで自分を出したくなるといった声も聞きます。
「そういった側面ももちろんあります。基本的に承認欲求というのは、誰しもが持つごく自然な欲求です。そのため、まずはあるものとして向き合った上で、『何で満たすか』の問題として考えるといいのではないでしょうか。
よく、仕事で承認欲求が満たされている人は、仕事以外の付き合いで自分を誇示しようとしない、という話があります。一方、ある程度の能力や役職がある方でも、『自分はこんなものではない』などの満たされない気持ちを持っていると、仕事以外の場で偉ぶったり、自分を誇示しようとする…。
子育ては工夫や努力をしても、いまいち他人に見えづらい部分があります。また、実生活ではなんでもかんでも子どもが中心になってしまうので、SNSを通じて、ママたちが誰かに認めてほしいと考えるのはある意味自然なことだと思います」(同)
SNSだと、子どもの出来事を投稿しているように見えて、実はその背後に、育児の工夫・努力や考え方、暮らしぶりまで、ママ自身のさまざまな「何か」が見え隠れしますもんね。
「ただし、フォロワー数や『いいね』を多く獲得しようと思うなら、ある程度の俯瞰的な見方をもって、記事を投稿する必要があります。思ったことや感じたことをただ漫然とアップするのではなく、見る側の視点に立って投稿している人のほうが、人気があるようです」(同)
先ほどの「SNSは目的を持って使おう」という話につながりますね。Instagramで料理本の出版を目指すなら、フォロワーを集める努力は必要で、そのためには俯瞰的な「記事の編集」が必要になる。そうではなく、旧友とのやり取りに使うのなら、たとえフォロワーが少なくても、それに一喜一憂して、執着する必要はないということですよね。
目的をもって使えば、承認欲求を満たす良いツールにもなるSNS。次回は、気持ちをすり減らしてしまう、SNSのNGな使い方について、引き続き大室先生に伺います。
(取材・執筆:代 麻理子)
大室産業医事務所 代表
産業医科大学医学部医学科卒業。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医、医療法人社団同友会 産業保健部門を経て現職。専門は産業医学実務のほかメンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、健康リスク低減など。
現在、日系大手企業や独立行政法人など約30社の産業医業務に従事。著書『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)。
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