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学校・まなび
小学1年生 2019年3月28日の記事
小学校で「道徳」が教科に! 何がどう変わったの?
2018年度から、小学校で正式な教科となった「道徳」。「え、じゃあ今まで教科じゃなかったの?」小学校で道徳の授業を受けた保護者世代からもそんな声がよく聞かれます。教科になることで、どんな違いがあるのでしょうか? 学研教育みらい・道徳編集室の梯ともみさんにお聞きしました。
●年間35時間の授業が行われ、教科書の使用がマストになる
そもそも道徳が“教科になる”とは、どういうことなのでしょうか?
「以前は、道徳の位置付けは、『教科』という縛りのない『領域』というものでした。道徳とは、授業だけに限らず、体育の授業でルールを守りましょう、給食の時間に食べ物を大切にいただきましょう、など、学校生活全体を通して学んでいくもの。この認識自体は以前からあったんです。それが、昨今のいじめの問題などが契機となり、道徳にもっと意識を向けましょうということで、教科になりました。
これまでは、道徳の授業を『道徳の時間』と呼んでいました。地域や学校ごとに『道徳の時間』の扱い方や授業実施時数が異なるということもあったのですが、教科になることで、文部科学省の学習指導要領に沿った授業を、年間35時間(1年生は34時間)行うことが必須となりました。教科書を使うこともマストになります。
保護者世代に『道徳の時間』の思い出を聞くと、『とにかくテレビ番組を観ていたような…』という方もいます。これまでは、副読本や新聞記事、テレビ番組などを中心に活用してもよかったのですが、教科化によって、この点は変わりました。授業時間をきちんと確保して、担任の先生だけでなく、学校全体や地域の方も巻き込んで取り組む。道徳に対する意識や体制が大きく変化したと思います」(梯さん)
●考え、議論する道徳。教科書に沿って話し合いで考えを深める
道徳に強く意識が向けられるのは素晴らしいものの、心の問題を学ぶのは難しそう…。教科書はどんな内容なのでしょうか?
「道徳の教科書というと、思わず涙してしまうような“感動的な話”や、勧善懲悪の昔話をイメージされる方も多いですが、実は違います。道徳の教科書は一方的に価値観を押し付けるのではなく、読んだ子どもたちが、それぞれ自分なりに『考える』ためのきっかけになるものがよいとされています。
分かりやすい例でいうと、『かちかち山』のお話。おばあさんに悪事を働いたタヌキは、『悪者』として改心の余地がないまま、ウサギに成敗されてしまいます。昔話としては『悪いことをするとその報いを受けるよ』という教訓があるのですが、子どもが自分の考えを深めていく“道徳の教材”に向いているとは言えません。
また、教科になる前から、教科書のような『副読本』を使っていた学校も多いと思います。道徳の学習指導要領には、『正直・誠実』『親切・思いやり』『感謝』『自然愛護』など19~22の学ぶべき項目(内容項目)があるので、教材を通して、それぞれの項目についてきちんと学べるかどうかも、教科書にどんな教材を掲載するかの判断基準になっています」(同)
教科書を使用した授業は、どのように展開されるのですか?
「『考え、議論する道徳』というキーワードにあるとおり、教科書のお話を聞いた子どもたちが自分の意見を発言する授業が理想的です。話し合いで意見を出し合い、聞き合うことを通して考えを深める。
例えば『お年寄りに親切にしないといけない』ということだけでなく、親切とはどういうことか、なぜ親切にするのか、場合によっては、それが相手にとって本当に親切になるのか、というように、学びをより深めていくことが求められます。
よく、道徳には正解がないと言われるのですが、一人一人の子ども自身の心の中に自分なりの正解、いわゆる『納得解』を導き出していくというのが、道徳の授業の目指すところだと思います」(同)
●成績表は数値評価でなく、子どもの成長を認めて励ます評価に
教科になったということは成績もつくということでしょうか。親としてはどのような基準で道徳の成績がつくのか、とても気になります…。
「道徳は心の問題なので、例えば算数のように、足し算ができる、割り算ができるなどとはっきりできる・できないで評価する教科ではありません。通知表に評価は記入されますが、数値評価はしない、入試に使うこともしてはいけないと決まっていて、そのために正式名称も“特別の教科 道徳”となっています。
子どもの成長を認めて、励ます評価であることが望ましく、例えば『初めはこう考えていました。その後、友達の意見を受け止めて、こんなふうに考えを深めていました』『こんな発言をはじめ、友達の心を動かす発言を積極的にしていました』など。授業の中だけでなく、一定期間での本人の変化や成長に着目した、記述式の評価になります。
ただ、想像していただけると思いますが、この評価はとても難しいもの。例えば、発言に積極的でなくても、心の中ではすごくいろいろなことを考えて、思慮を深めている子どももいます。また、道徳で取り扱うテーマは育ってきた環境に影響されるところも多く、例えば、『国際理解』というテーマで話し合った場合、これまで触れる機会があったかなかったかで感じ方がまったく違います。
道徳の目的は『よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う』こと。この目的が果たせているかどうかの評価については、それぞれの先生の負担がとても大きく、これが今後の課題だと言われています」(同)
教科としての道徳は始まったばかりで、まだまだ学校現場も、試行錯誤の段階なのかもしれません。私たち保護者も、「よりよく生きる」という本来の目的まで視野に入れて、道徳教育に向き合っていきたいですね。
(取材・執筆:野々山幸)