絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、雑誌・絵本紹介サイトなどで執筆。
作家へのインタビュー多数。保育園児から小学生まで3人の子を子育て中。
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生活・しつけ
小学1年生 2019年3月22日の記事
読者のみなさまの「子育てのお悩みや疑問」のヒントになる絵本を紹介していく当連載。第5回のテーマは「ちょっと変わった子を見守る視点を教えてくれる絵本」です。学校に慣れて楽しく過ごす子がいる一方で、なかなかうまくいかないわが子にお悩みのママもいるかもしれませんね。子どもの個性はそれぞれ。わが子を尊重したいと思っていても、ついヤキモキしてしまう親心……。そんなとき、こんな絵本を読んでみるのはいかがでしょうか。
おとなしい子、音読にコンプレックスがある子、教室で口をきかない子……。絵本の中にもいろんな子がいて、たくさんのヒントがあります。夫婦で読むのもオススメですよ。3冊ご紹介します。
◆今回ご紹介する絵本
『みんなからみえないブライアン』(くもん出版)
『わたしのそばできいていて』(WAVE出版)
『やましたくんはしゃべらない』(岩崎書店)
『みんなからみえないブライアン』(トルーディ・ラドウィッグ作、パトリス・バートン絵)の主人公・ブライアンは、ひとりで絵を描くのが好きな男の子で、クラスのみんなから「見えない」みたい。学校はどうしても、声が大きい子に注目が集まるし、キックベースのチームを作るときは上手な子やその友達がメンバーに選ばれる。ランチの時間にみんながパーティの話をしていても、呼ばれていないブライアンは話に入れないんです。
そんなある日、クラスに転校生がやってきます。クラスで少し浮いているその子に、短い絵入りの手紙を書いたブライアン。転校生との間に交流が生まれ、少しずつ物事が変わっていきます……。
ひとりだけモノクロで描かれていたブライアンが、だんだん色づいて「見える」ようになっていく過程が繊細に描かれた絵本。転校生の子が笑われる場面で「みんなから笑われるのと、みんなから見えないのと、どっちがつらいのか」と考え、笑わなかったブライアンは優しい子だとわかります。ブライアンが描く絵からは夢とユーモアが伝わってきます。ブライアンが色づいていく姿に、じんわりと勇気づけられる読後感です。
マディは字を読むのがだいっきらいな女の子。学校で声に出して本を読まなきゃいけない時間が何より嫌。「がんばって」と先生は言うけど、つっかえたりするとみんながクスクス笑うから、だんだんがんばれなくなってしまうの……。
『わたしのそばできいていて』(リサ・パップ作)は、音読にコンプレックスがある女の子が主人公。苦手なことに自信をなくし、下を向いてしまう女の子の姿が前半で描かれます。でも、後半に登場するふわふわで大きくてまっしろな犬が、その空気をがらっと変えてしまうのです。
ママに連れ出された図書館で、犬に本を読んであげることになったマディ。ドキドキして言葉が出てこなくても、ただまっすぐじっとしずかに見つめ返して寄り添う、ふわふわの大きな犬に、マディの気持ちは楽になっていきます。「ふしぎね。まちがえることを気にしなくてもいいのなら、本を読むことって、とってもたのしい」「ゆっくりでいいんだよ、まちがえてもいいんだよ、って、わたしに教えようとしているみたい」エンディングも爽やかで、あたたかい気持ちになる絵本です。
1年生のとき隣の席だったやましたくんは、6年生の今まで、ひと言もしゃべったことがない。声を聞いた友達はだれひとりいない……。それなのに、授業中はずっとふざけてるし、友達もたくさんいるみたい。先生たちも卒業式を迎える最後まで、やましたくんを見守っているようです。『やましたくんはしゃべらない』(山下賢二作、中田いくみ絵)は、全編をとおして、ちょっと頑固で生き生きとした子どもらしい「やましたくん」が描かれています。
「ずっとしゃべらないなんて……ありえない! だって、絵本でしょ?」と思うママがいるかもしれませんが、これは実話。京都で企画編集活動やアンテナショップを営む「ホホホ座」(元・ガケ書房)の山下賢治さんの、自伝的エッセイに収録されているエピソードが絵本になったものなんです。1972年生まれの著者は、本当にひと言も学校でしゃべらない小学生時代を過ごし、中学生になったと同時に学校でもしゃべるようになったそう。
何かの怖れから「しゃべれない」子、やましたくんのように自分の意志で「しゃべらない」子、それぞれ子どもの気持ちは違うかもしれませんが、寄り添い、見守ることができるのは大人をはじめとする周囲の人だけ。そして、ある時期を過ぎればぐっと子どもは枝葉を伸ばし、自分で生きていくことができることを教えてくれます。中田いくみさんの親しみやすく端正なタッチが美しい絵本です。
ちょっぴり内気だったり、文字になじむのに時間がかかったりというのは、本当は「変わってる」というほどのことではありません(「ひと言もしゃべらない」というのはなかなかですが……)。でも今は、世の中にスピード感があり、情報が多くて、ちょっと外れたことをするのが難しい、息苦しい時代なのかもしれません。せめてときどき絵本を開いて視野を広げて、子どもの心に寄り添う時間が、親子にほっとするひとときを与えてくれますように。
(選書・執筆:大和田佳世)
絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、雑誌・絵本紹介サイトなどで執筆。
作家へのインタビュー多数。保育園児から小学生まで3人の子を子育て中。
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