幼児教育から大人の生涯学習に至るまで、さまざまな形での学びのコンテンツを提供する学研グループのシンクタンク。数多くの保護者や現場の先生、研究機関・大学、各省庁と連携を図りながら、学習・教育に関わる研究を行い、情報発信している。
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学校・まなび
小学1年生 2019年2月13日の記事
2020年度に小学校での全面実施となる「学習指導要領」。パパ・ママ世代の教育から具体的にどこが変わり、保護者はどのように対応したらよいのでしょうか? 注目されている道徳・英語・プログラミングはもちろん、今回の改訂で重点が置かれているポイントについて、前編に引き続き、学研教育総合研究所の大塚恵理子さんにお話を伺います。
今回の改訂は、2020年4月から“小学校での全面実施”とのこと。告示されたのは2017年の3月ですが、告示と実施は何が違うのでしょうか?
「学習指導要領は、現場の混乱を避けるために完全実施の前に告示し、小学校では2年間の移行期間を設けています(「移行措置」という)。移行期間中、移行措置の特例が定められている一部教科については、各学校の判断で新しい内容の一部を早めに取り入れることもあります。また、改訂はそれまで積み重ねてきたものをベースに整理・追加していくため、施行日からいきなり、前日までとまったく違う授業になるわけではありません」(大塚さん)
実施後も細かな検証は続き、部分的な改正は常時行われるそうですが、大きな改訂が実施されるのは約10年ごと。これまでは、どのように変化してきたのでしょうか?
「授業時間が大きく減った1980年、小学1・2年生で社会と理科に代わって「生活科」が導入された1992年、完全週5日制となった2002年などがトピックスとして挙げられます。約10年というスパンなので、保護者の方が小学生の頃とは大きく異なる部分もあると思いますが、授業時間数や教わる内容だけでなく、『今の学校教育が何を目的にしているのか』の大本を把握できると、保護者の方も学校との意思疎通がしやすくなるのではないでしょうか」(同)
今回の改訂でもっとも重点が置かれているポイントは何ですか?
「前回(2011年)の改訂から引き続き目標とされるのが、つめこみでもゆとりでもない『生きる力』の育成です。今回の改訂ではその方向性を保ちつつ、より主体的・対話的な深い学び(アクティブ・ラーニング)を充実させた内容となります。つまり、知識を単にインプット・アウトプットするのではなく、各教科特有の『ものの見方・考え方』を働かせ自己や他者と対話することで、質の高い学びを得ることが求められているのです。
したがって、これからは『自分の頭で考える・伝える』ことがさらに問われるようになるでしょう。『学ぶ内容』というよりも『学び方』が大きく変わることに注目してください」(同)
さらに、新学習指導要領ではこれからの時代に必要となる資質・能力の“3つの柱”として、下記を挙げているとのこと。
1.“知識・技能”(何を知っているか・何ができるか)
2.“思考力・判断力・表現力等”(身につけた知識や技能をどう使うのか考える力)
3.“学びに向かう力・人間性等”(学ぶ意欲)
「現行版でも明記されている1、2に、新たに3を加え、『生きる力』を支える柱として身につけさせることが今回の改革の目標です。学習指導要領もこれに添って改訂され、授業時間数もさらに増えます。また、後述する『社会に開かれた教育課程』を目指している点も重要なポイントです」(同)
今回の教育改革では「道徳・英語・プログラミング」の3つがまず頭に浮かびますが、これらは誤解されていることも多いのだとか。3つの科目について、それぞれ正しい情報を教えていただきました。
・道徳
小学校では2018年4月からスタートしていて、今回の改訂で正式に「特別の教科」となる。「教科」であるため、教科書が使われるようになり、通知票での評価の対象に。ただし、数字で評価できるような科目ではないため、記述式のコメントになる予定。入試などで必要な成績としては反映されないため、「“特別の”教科」と呼ばれる。
・英語
3年生から歌やゲームなどで親しむ「外国語活動」として導入され、5・6年生になると「外国語科」という正式な「教科」になる。「話す(会話・プレゼンテーション)・聴く・読む・書く」の4技能5領域が評価される。
・プログラミング
「プログラミング」という「教科」が新設されるのではなく、他の教科に組み込んで行うべきものとして、取り入れ方は各学校に委ねられている。プログラマーの養成(プログラミング言語の習得)が目的ではなく、“プログラミング的思考=物事を論理的に考える力”を身につけることを目指す。
「3つとも、ただ知識や技術を身につけるだけでなく、学んだ結果どうなるのか、どう生かすのかがポイントになります。子どもに対する通知票などでの評価も、その点に重点が置かれたものになるようです」(同)
学びの方法まで大きく変わる、今回の教育改革。教える側にも大きな変化や負担がありそうですが、そうまでしてやらなければならない局面ということですよね。
「人口減少やグローバル化、AIの発展といった社会の変化への対応は、日本だけでなく世界中で共通の課題となっています。今回の改革は、このままでは国際社会での日本の競争力が低下するという懸念から、より深く主体的な学び方ができる人材を育てようという狙いで実施されるものです。でも、これも日本に限った話ではなく、オーストラリアやフィンランドなどでは、同様の危機感を持った教育改革がすでに行われています」(同)
大塚さんいわく「幼稚園から大学までが同じ方向を向いて同時に改革されるという点で、日本においては“明治以来の大改革”とも言われています」とのこと。そんななか、保護者ができることを改めて教えてください。
「身近な環境を切り口に社会と出会い、子どもたちの世界が広がることを目指すのが、改革の肝である『社会に開かれた教育課程』です。学校の中だけを学びの場として完結させず、授業の一環として地域の人に話を聞いたり、保護者にも学校の取り組みを伝えたりすることで、学校・地域・家庭が連携してよりよい学びとしていこう、という志が込められています。まずは保護者の方がこの全体像を把握しておくこと自体に、大きな意味があるのではないでしょうか」(同)
ついつい新設の教科や授業時間数の増加など、細かいことに目が行きがちですが、まずは前提となる社会情勢や改訂の目的を知ることが大切なのですね。学校との連携もますます密になるということで、保護者の方も関わり方を見つめ直す必要がありそうです。
(取材・執筆:高柳涼子)
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