大和田佳世(おおわだ かよ)
絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、絵本紹介サイトなどで執筆。作家へのインタビューも行う。9歳、5歳、1歳を子育て中です。毎回、この時期ならではのおすすめの絵本を紹介していきます。
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小学1年生 2018年1月16日の記事
3学期がはじまりました。クラスの友達と過ごすのもあと少しですね。4月の入学式から、初めての学校生活の中で一緒にたくさんのことを学んできた子どもたち。今回は、そんな友達を思いやり、互いにやさしい気持ちで接するきっかけになる絵本を紹介します。
『ええところ』(くすのきしげのり作、ふるしょうようこ絵)の主人公は、ちょっぴり自分に自信がない女の子のあいちゃん。「わたし、このごろ おもうねん。わたしには、『ええところ』なんか ひとつも ないって」とつぶやきます。走るのも遅いし、100点なんてとったことないし……。友達のともちゃんは「そんなことないよ」と言ってくれますが、「わたしのええところ、教えて!」とお願いすると、ともちゃんは答えられません。ますます落ち込むあいちゃんです。
「あしたまでにかんがえてくる」と帰ったともちゃんは、翌朝ランドセルを背負ったままあいちゃんのところへ走ってきて「ええところ」を教えてくれます。それは、あいちゃんの手があったかいところ!「このまえ、手をつないだときに思ったんや。たぶんクラスでいちばんあったかいと思うわ」。
嬉しくなったあいちゃんは、「さわらせて」「あくしゅして」と集まってきたクラスのみんなの、冷たい手をあたためてあげますが、代わりに自分の手も冷たくなってしまいます。「わたしのええところが、あっというまになくなってしもた」と思うあいちゃんに、ともちゃんは……?
あいちゃんの「ええところ」をいっしょうけんめい考えるともちゃんの姿に胸を打たれます。同時にあいちゃんも、ともちゃんの「ええところ」に気づいていくのです。
作者は、小学校教諭の経験があり、子どもの気持ちに寄りそうお話作りに定評がある、くすのきしげのりさん。絵を描くふるしょうようこさんは、主人公が落ち込んだときには涙の色で、褒められたり友達を思いやったりするときは、花いっぱいの愛らしい絵で、子どもの気持ちを描き出しています。
どんな子も、学校生活の中のちょっとしたことで、自信をなくすことがあるかもしれません。そういうときに励まされる言葉は、一生のプレゼントになるかもしれませんね。関西弁のセリフがあたたかく、友達の「いいところ」を見つけた嬉しさが絵本からじんわりと伝わってきます。
『あなた』(谷川俊太郎作、長新太絵)は、詩人の谷川俊太郎さんがやわらかい言葉で、深い意味を投げかける、ちょっと哲学的な絵本です。ずっと前、わたしはおかあさんのお腹にいたけれど、今は、わたしは、わたし。そして世の中には「わたし」以外のたくさんの「あなた」がいます。
向かい合う友達のさっちゃんも、「あなた」で、「わたし」がひとりしかいないように、「あなた」もひとりしかいない。「あんたなんかだいきらい!」「もうあんたとはあそばない!」とけんかして、家に帰って泣くとき、わたしは思います。「さっちゃんも泣いたかしら」。
引っ越してきた子を見て、「あのこだれ?」「しらない」とさっちゃんと言い合う、わたし。そのうち「あのこ」は「けいちゃん」になって、いっしょにマンガを見て遊ぶ「あなた」になる。そして、あなたから見ると、わたしは「あなた」です。
わたしのまわりには「あなた」がいっぱい。たくさんの「あなた」がいて、わたしは「わたし」になる……。こうして言葉で書いていると、こんがらがってきそうですが、長新太さんの絵からは「わたし」と「あなた」の不思議な関係がちゃんと伝わってきます。
鏡をのぞきこむように「あなた」の世界を想像すると、なんだか胸がざわざわして、同時にとても静かな気持ちになります。1年生にはちょっと難しいところもあるかもしれませんが、手元に置いておいて、友達関係でモヤモヤしたときなど、読み返してあげたい絵本です。ちなみに同じ谷川俊太郎さんと長新太さんのコンビの絵本に『わたし』という絵本があります。合わせて読むと面白いので、ぜひ探してみてくださいね。
『ええところ』と『あなた』。どちらも、読んでみると、今まで見ていた友達やクラスの景色がちがって見えて、やさしい気持ちになれるのではないでしょうか。
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大和田佳世(おおわだ かよ)
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